米マイクロソフトは4月10日、メーカーやシステム・インテグレータなどがWindows CEのソース・コードを改変し、さらに改変したオリジナルのWindowsを製品に組み込むなどして販売することを許可する新プログラムを日本を含む全世界で開始した。マイクロソフトが、商用目的でのOSのソース・コード改変、および改変したOSの販売を第三者に許可するのは、これが初めて。デジタル家電など組み込みOSの分野で攻勢をかけるLinuxやTRONといったOSに対抗する。

 今回新しく設けたライセンス・プログラムは「Windows CE Shared Source Premium Licensing Program(CEP)」。PDA(携帯情報端末)やデジタル家電を提供するメーカー、組み込みLSIなどを提供するシリコン・ベンダー、システム・インテグレータなどが対象となる。メーカーなどは無償でソース・コードを参照し、ソースコードを改変できる。カーネル部分のほか、付属するInternet Explorerといったアプリケーションも対象。改変したOSをデジタル家電に組み込むなどして提供する際のライセンス料は、従来と変わらない。

 電話による記者会見に応じた米マイクロソフトのクレイグ・マンディ上級副社長兼CTO(最高技術責任者)は、「CEPを実施することで、高度な製品やアプリケーションが短期間で世の中に浸透するようになる。メーカーにとっても自社製品への最適化と差別化が可能になり、ビジネス・チャンスが広がる」と語った。

 マイクロソフトはソース・コード改変と同時に、ソース・コード公開の範囲も広げた。これまではWindows CEの約80%を公開していたが、これを95%(ステップ数にして150万行)まで引き上げた。残りの5%は、「マイクロソフトが他社からライセンス提供を受けている部分で、重要なところではない」(マンディCTO)としている。

 ただしマンディCTOは、パソコンやサーバー向けOSの改変許可に関しては「考えていない」と話す。その理由として、米マイクロソフトの古川亨 バイスプレジデントは「組み込み向け市場では、従来の家電の幅を超える製品も出てきており、非常に用途が多岐にわたる。一方、例えばパソコンは同じインテル・アーキテクチャの上で動作しており、互換性を保つほうが重要になる。個々に改変されれば互換性が失われてしまう」と説明する。

 すでにマイクロソフトはCEPの正式な開始に先立って、米インテルやナショナル・セミコンダクターといったシリコンベンダー、韓国のサムソンや日本の東芝、日立製作所、松下電器産業、三菱電機といったメーカーと試験的にCEPを始めている。なかでも日立は、ソース・コードを改変したWindows CEを自社のPDA製品「NPD-20JWL」に組み込み、昨年11月に出荷済みだ。日立は主にGUIの変更に伴い、ソース・コードを改変したという。

 気になるのは、ソース・コードを改変した場合の知的所有権の帰属である。この点に関しては、「マイクロソフトに帰属する部分と、そうでない部分の両方がある。メーカーなどがCEPに基づいて改変作業を始めた段階で、話し合いながら決めていきたい。ただ、基本的にはマイクロソフトのソースを改変した著作物は二次的な著作物であり、マイクロソフトが権利を主張できる」(マイクロソフト アジアリミテッド法務本部の平野高志本部長)と曖昧である。

 CEPの対象となるOSのバージョンは、Windows CE 3.0/.NET 4.0/同 4.1と、今後リリースされるWindows CE。CEをベースにカスタマイズした派生商品のPocket PCやHandheld PCなどは対象外である。これは「各社のニーズに応じて各社流のアレンジを加えるには、“生のCE”をベースに作り上げた方が都合がよい」(マイクロソフト日本法人広報)との理由である。

井上 理=日経コンピュータ