「あらゆるサービス業にとって、今後は自社のサービスに対するサービス・レベル・アグリーメント(SLA)を明確に定めることが、より重要になってくる。企業の社会的責任が問われている今こそ、自社のサービスに責任を持つ姿勢を顧客に示していくべきだ」。カブドットコム証券の斉藤正勝COO(最高執行責任者)はこう話す。「たしかに、SLAを定めるのはサービス業にとって怖いもの。契約書の中に免責事項を定めたくなる気持ちもわかる。しかし、契約書の中身が“免責”だらけでは、顧客本位とはいえない」(斉藤COO)。

 カブドットコム証券は昨年11月、顧客の株式注文に対するSLAを業界他社に先駆けて導入した。顧客から受け付けた株式注文を処理するまでの時間が5分を超え、その結果顧客に不利が生じた場合に、同社が差額を負担するというものである。

 例えば、ある顧客が株価1100円の株式に1000円の指値で買いの注文を出したとする。しかしシステムの遅延で6分間取引を成立させることができず、その間に株が1000円まで値を下げ、すぐに1100円まで値を戻してしまった--。こうしたとき、カブドットコム証券は「システム上の都合で1000円で約定できなかった」という事実を翌日午前9時までに顧客へ通知。顧客は現在の株価にかかわらず、本来約定したはずの1000円で取引を成立できる。

 もし仮にカブドットコム証券の基幹系システムがダウンすれば、それだけ同社の負担は膨らむ。それだけに、SLAの導入は相当なリスクを負うことになる。これについて斉藤COOは、「顧客サービス向上のためには、リスクを覚悟で新しいことに挑戦していかなければならない」と話す。SLAの導入に際しては、システムも整備した。「障害の自動回復から取引内容の精査、遅延による差額の精算、そして顧客の承認を受け付けるまで、一連の業務フローをシステム化した」(斉藤COO)。

 同社がSLAを導入してから3カ月経過した現時点では、「外部システムとの関係などが原因で実際に損害を負担した事例は100件前後あるものの、(自社の)基幹系システムの稼働率は100%。ダウンは一度もない」(斉藤COO)という。同社の基幹系システムは、日本ユニシスの大型サーバー「ES7000」で稼働している。OSはWindows2000 Datacenter Serverだ。斉藤COOは、「オープン系でもきちんと設計して使えば、メインフレームと遜色ない稼働率を出せる」と強調する。

 カブドットコム証券は現在、マイクロソフトや日本ユニシスとは、システムの稼働に関するSLAを結んでいない。斉藤COOは、「今後はサポートなどの面で、メーカーとSLAを結ぶ検討をしていきたい。メーカーにもサーバーやソフトに対する責任を持ってもらいたい」と述べる。「その代わり、しっかりと仕事をしてくれたメーカーには感謝の意を表明する」(斉藤COO)。カブドットコム証券は2月4日、基幹系システムが連続稼働していることに対して、ES7000を提供する日本ユニシスに感謝状を渡した。今後は同様の表彰をマイクロソフトに対しても行う予定という。

大和田 尚孝=日経コンピュータ