「これまで当社はどちらかというと現場のエンジニアとの付き合いを重視していた。その姿勢は今後も変わらないが、一方で情報システム部門の幹部、さらに企業のトップに向けて当社の“価値”を訴求することを2003年には強化していきたい」。DelphiやJBuilderなどのソフトウエア開発ツールで知られるボーランド日本法人の小手川清社長は2月4日、2003年度事業戦略説明会でこのように抱負を述べた。

 小手川社長は日製産業(現日立ハイテクノロジー)、イーエムシー ジャパンなどを経て2002年12月10日にボーランドに入社。同12月16日付けでボーランドの代表取締役社長に就任した。「40年以上、ハードウエアの世界を歩いてきた。ソフトウエア分野の会社はこれが初めてで、『自分に本当にできるのか』と不安もあった」と小手川社長は当時の心境を明かす。しかし、就任2カ月を経たいま、「だんだん自信が出てきた。この会社は意外と大化けするかもしれない」と自信をみせる。

 小手川社長が挙げたボーランドの“価値”とは、同社が「要件定義から設計、開発、テスト、運用、変更管理まで、システム構築のライフサイクルをトータルに支援できる製品群を提供している」こと。ボーランドはいまだにDelphiやJBuilder、C++Builder、Kylixなど“ソフト開発ツール・ベンダー”のイメージが強い。しかし実際には、Webアプリケーション・サーバーのBorland Enterprise ServerやデータベースのInterBase、テスト・ツールのOptimizeit、組み込み用Javaデータ・ストレージのJDataStoreなど幅広い製品を扱っている。

 さらに同社は2002年から今年はじめにかけて、製品ラインアップの強化を急いできた。今年1月には設計ツールの開発元である米トゥゲザーソフトと要件定義ソフトや変更管理ソフトの開発元である米スターベースの買収を完了。2002年にはそれに先駆けて、組み込み用CORBA(Common Object Request Broker Architecture)ミドルウエアの開発元である米ハイランダー・エンジニアリングや、設計したビジネス・モデルからのアプリケーション開発を支援するツールの開発元であるスウェーデンのボールドソフトを相次ぎ買収した。

 「当社はシステム構築の全工程を提供できる製品を備えている。しかも、それぞれの工程には他社の製品を使うこともできる。この点を企業のトップにアピールしたい。私がイーエムシー ジャパンの社長・会長を務めていたころ、大手企業約600社のトップとの付き合いがあった。この関係をボーランドでのビジネスにも生かしたい」と小手川社長。並行して、システム・インテグレータをはじめとするパートナの開拓を進める。「2003年には10~12社のパートナと強固な提携関係を作りたい」(同)。

 2002年におけるボーランドの全世界での売り上げは、前年比10%増の24億4600万ドル。「日本法人の売り上げの数字は明かせないが、2002年の売り上げは前年に比べて10数%成長した。アジアからの売り上げは全世界の25%を占め、そのうち日本が占める割合はかなり大きい。2003年はトゥゲザーソフト買収の効果も出るので、前年比で15~20%増を狙いたい」と小手川社長は語る。

田中 淳=日経コンピュータ