「次世代インターネットやブロードバンドの普及過程で、中国や韓国が日本を猛追している。日本がアジアの主導権を取りたいなら、インターネット関連技術の研究開発に注力するしかない」。総務省の総合通信基盤局 国際部国際政策課で国際報道官を務める田尻信行氏は、日本の“国益”という観点から、インターネットにかかわる研究開発の重要性を強調する。

 田尻氏は1月31日に都内で開かれたセミナー「アジア・ブロードバンド計画」で講演。アジアと欧米をそれぞれの地域全体で比較すると、アジアはインターネットの普及が遅れており、言語の種類の多さや離島における通信環境、研究開発に従事する人材の育成といった点で、固有の問題を抱えていると指摘した。政府・総務省はこれらの問題を解決するため、「日中韓を中心にアジア各国が協調し、今後5~10年で実施すべき政策を共同で決めていく」と述べた。

 こうしたアジア地域での協調路線を打ち出す一方で、日本の政府や企業には悠長に構えている時間的余裕がないという。「各国の情報通信担当者との会合では、インターネットの普及過程で中国や韓国がアジアの主導権を取ろうとする動きが露骨にある。特に中国は積極的だ」と田尻氏。

 同氏はさらに「日本企業は技術開発の面で国際競争に遅れ気味だ。通信分野では欧米に遅れを取ったばかりか、中国にも追いつかれた。価格競争力では、もちろん中国が日本を上回っている」と指摘。「日本が主導権を狙ううえで残された道は、IPv6をはじめとするインターネット分野の先端技術で、他国に先駆けた研究開発を進めるしかない」と危機感をあらわにする。

 政府のIT戦略本部はこうした問題意識から、「e-Japan重点計画」の練り直し作業に着手している。同計画の改訂版には、こうした“国益”を意識した政策が盛り込まれる予定である。

金子 寛人=日経コンピュータ