「ソフトウエアの品質の良し悪しは、顧客の満足度で決まる。どんなに欠陥が少なくて高信頼性のソフトウエアを開発したとしても、顧客に受け入れられなければ、その品質は低いと言わざるを得ない。顧客を見据えて、真に高品質のソフトウエアを開発するために、ソフトウエア技術者は定義力・検証力・市場コミュニケーション力を身に付ける必要があるだろう」。

 東京大学大学院工学系研究科の飯塚悦功教授はこう指摘する。飯塚教授はシステム信頼性工学を教えるとともに、製品やソフトウエアの品質について研究を続けている。

 定義力とは、顧客が満足するソフトウエアの仕様を決められる力である。「ソフトウエア製品を開発して販売する場合、なによりも欠かせないのはこの力だ。受託開発であっても、この仕様で顧客が満足するかどうかを常に考える必要がある」(飯塚教授)。

 検証力とは、市場に出まわっているソフトウエア・コンポーネントを検証する力である。「顧客を満足させるために、コンポーネントを集めてきて、素早く開発する場合がある。ブラックボックスのコンポーネントを使うと、手作りより品質の維持が難しくなる。それでも顧客がとにかくスピードを重視したら、使わざるを得ない」。

 コンポーネントを組み合わせた結果、多少のバグが残っていてるソフトウエアでも、顧客が満足すれば、手作りでバグを排したソフトウエアより高品質となるわけだ。

 最後の市場コミュニケーション力とは、顧客と対話をしてニーズを引き出したり、出来上がったソフトウエア製品の価値を市場にアピールしていく力である。

 以上の三つの力は、これまでソフトウエア技術者に求められてきたスキルの枠を超えている。飯塚教授は、「言われた通りのソフトウエアをバグがないようにこつこつ作っていく仕事ももちろんある。だが、それだけでは顧客の満足度はなかなか高まらない」と見ている。

 飯塚教授は、財団法人の日本科学技術連盟(http://www.juse.or.jp/)にある、「ソフトウェア生産管理研究委員会」の委員長を務めている。ここでは20年前からソフトウエア品質の向上策を研究しているが、今後は、「広義の品質を維持できる方法を考えていきたい」(飯塚教授)という。同委員会は、12月17~18日に、ソフトウエアの品質管理に着目した「ソフトウェア生産における品質管理シンポジウム」(http://www.juse.or.jp/tqm/symposium_20021022_1.html)を開催する。

大和田 尚孝=日経コンピュータ