「我々がナレッジ・マネジメントの活動を通じて蓄積した“ベスト・プラクティス”には、金額に換算すると15億ドル分の価値があると考えている。実際、10億ドル分の価値を会社にもたらしている」。米フォード・モーターでプロセス・リエンジニアリング・アンド・ナレッジマネジメントを担当するサンジェイ・スワラップ氏は、ナレッジ・マネジメントの成果をこのように強調する。

 「一昔前、カンニングは悪いこととされていた。しかし、今はそんな時代ではない。他人のよい部分をお手本として、成果を得るのが当たり前になっている」とスワラップ氏は話す。フォードは、企業情報ポータルの構築や文書の蓄積をはじめとするナレッジ・マネジメントに関する取り組みを実施。その中で、最も力を入れているのがベスト・プラクティス、すなわち「業務上の手本となるプロセスやルール、考え方」の共有だ。

 フォードは1995年から、全世界の拠点でベスト・プラクティスの収集と共有を開始。95年当時はファクシミリを使っていたが、96年から情報の収集方法をイントラネットに移行。現在ではイントラネット上に「生産ライン」や「研究開発」といった業務別に53のコミュニティを置き、その中で2115の話題について議論を続けている。

 ベスト・プラクティスを認定する流れは以下の通り。コミュニティには「コミュニティ・ゲートキーパー」と呼ばれる人を一つずつ置く。各コミュニティは活動を通じて作成したプラクティスを自主的に申請。コミュニティ・ゲートキーパーは、そのプラクティスの中からレベルの高いものを選んで上層部である「シニア・リーダーシップ」に上げる。シニア・リーダーシップが選んだプラクティスが、ベスト・プラクティスとして認定される。「低いレベルのプラクティスを決して共有しないようにすることがポイントだ。高いレベルのプラクティスを共有しなければ、会社に価値はもたらさない」(スワラップ氏)。

 現在、フォードが所有しているベスト・プラクティスは8000ある。米ナビスコや米クラフト・フードも、フォードと同様にベスト・プラクティスの共有プロセスを実施している。

島田 優子=日経コンピュータ、米サンノゼ発