「待っているだけでは、コンサルタントに顧客が来るわけがない。地道に足を運ぶことが大切だ」。ITコーディネータ制度創設に関わり、長年にわたって中小企業診断士としてコンサルティング業務をしてきたTMI(http://www.teamweb.ne.jp/TMI/)の高島利尚氏はこう語る。ITコーディネータの中に、政府やITコーディネータ協会による支援制度に過度に期待する空気があることに苦言を呈したものだ。

 ITコーディネータはITと経営の両面を支援するコンサルタントに与えられる資格。2001年10月に第一期認定者が出た比較的新しい資格で、中堅中小企業の経営戦略とIT戦略の策定を支援する役割を担う人材として期待されている。

 政府はITコーディネータ支援の姿勢を打ち出している。ITに関する中小企業からの相談が中小企業支援センターなどに寄せられると、登録しているITコーディネータにその企業を紹介したり、ITコーディネータを利用したシステム導入については金利を優遇するなどの仕組みを設けている。

 しかし、こういった支援制度は「有効に活用されているとはいえない」(経済産業省幹部)状況だ。「中小企業の経営者は日々忙殺されている。よほど緊急なことでなければ、平日の昼間に中小企業支援センターに足を運ばない。待っているだけでは顧客はこない」と高島氏はその理由を解説する。

 高島氏は駆け出しのコンサルタントだった頃、「中小企業診断士としてスキルを磨き、顧客を開拓するため案件がなければ無料で仕事をさせてもらった」経験を持つ。中小企業の経営者には無料で仕事をして、実力を認めてもらってから有料に切り替えてもらうのも一つの方法だとする。

 高島氏が同様の考えで積極的に推進しているのが、東京都多摩地区を中心とする社団法人 首都圏産業活性化協会(TAMA協会、http://www.tamaweb.org/)の「TAMAコーディネータ」活動だ。高島氏はTAMA協会の評議員を務めている。

 TAMAコーディネータは、TAMA協会の会員企業向けに派遣するコンサルタントである。会員企業は5回までコンサルティングを無料で受けられる。会員企業はそのコンサルタントが同社の経営に役立つのかどうかを無料のコンサルティング期間中に見極めることができる。

 コンサルタントにはTAMA協会から一回あたり4万円の報酬が支払われる。「今年度は9月から本格的に活動しているが、すでに約20社にTAMAコーディネータが訪問した実績がある」(TAMA協会の川村貴俊 事務局次長)。TAMAコーディネータには、ITコーディネータ、中小企業診断士、技術士、公認会計士、弁護士、弁理士などの資格取得者が多く含まれる。

 TAMAコーディネータのような、顧客企業が安心してコンサルタントを利用でき、コンサルタントも地道な活動を継続的に行える仕組みの有無が、「ITコーディネータ制度が成功するかどうかにつながるのではないか」と高島氏は語る。

広岡 延隆=日経コンピュータ