政府は8月1日,情報システムの調達で機能面と保守/運用を含むライフサイクル・コストを重視した新たな入札方式を導入した。対象となるのは予算額が1億2000万円以上の大規模案件である。

 新方式導入の狙いは安値入札の防止だ。2000年から2002年にかけて,特に電子政府にかかわるシステム調達案件でベンダー間の競争が過熱し,採算割れと思われる安値での落札が頻発。複数の大手ITベンダーに対して,公正取引委員会から不当廉売の疑いで相次いで注意や警告が出るという異常事態となっていた。

 従来から予算額が1億2000万円以上の大規模案件では,提案書から算定した技術点と入札金額の両面から評価して落札業者を決定する総合評価落札方式を取り入れていた。しかし技術点を入札金額で割った点数の高低で落札業者を決めていたため,極端な安値で入札すれば機能の優劣にかかわりなく,ほぼ確実に受注できた。

 新方式では,価格を点数化したものと技術点を,1対1の比率で加算した点数の高低で落札業者を決定する。ベンダーが安値で入札しても,機能点で劣っていれば受注しにくくなるため,安値入札の抑止力になると期待されている。

 さらに保守費用,運用費用など次年度以降に発生するコストを,技術点に組み込んで評価できるようにした。「入札金額だけでなく,ライフサイクル・コストを評価することが可能になった。一層適正な調達ができるようになる」(経済産業省 商務情報政策局情報処理振興課の河野太志課長補佐)。

 新方式が機能すれば,安値入札は減少することが期待される。しかし,それで問題がすべて解決するわけではない。官公庁におけるシステム部門の能力が低ければ,ベンダーへの依存性が従来よりも高まる可能性さえある。

 システムの機能面を重視するということは,官公庁のシステム部門が中立の入札仕様書を作成し,ベンダーの提案を評価できる能力を持っているかどうかが問われることを意味する。現実には,官公庁のシステム部門の能力は高いとはいえない。ある中央省庁のシステム部門の幹部は,「ベンダー依存といわれても仕方がない」と打ち明ける。実際に特定ベンダーに有利な入札仕様書も少なからずあると言われる。

 このような状況では,新入札制度により,かえって特定ベンダーによる寡占化が進むのではないかということが懸念される。政府のシステム調達は80%を上位数社で占めるといわれる寡占市場である。システム部門の能力向上に手をつけず,ベンダー依存の状況が続けば,安値入札という新規参入の切り札がなくなるだけに,寡占傾向がさらに強まる可能性がある。

 政府もこの問題に無関心ではない。経済産業省を中心に,外部人材の登用などで能力の底上げを図ることを検討中だ。

広岡 延隆=日経コンピュータ