武蔵大学の松島教授 「日本企業のIT投資は予算が先にありき。まるで役所の公共投資と同じだ」。武蔵大学経済学部(経営情報システム担当)の松島桂樹教授はこう指摘する。「システムを作ることが決まってから,『役に立つシステムです』と主張する必要に迫られて投資対効果を算出する。私はこれを“効果のかき集め”と呼んでいる」。

 松島教授は日本IBMでシステム企画などを担当していた経歴を持ち,現在の研究テーマは企業のIT投資。著書に『戦略的IT投資マネジメント』(白桃書房,1999)などがある。

 「日本企業では毎年,IT予算が決まっていることで,IT投資の意思決定がまったく逆の順番になってしまう」と松島教授は問題を分析する。かき集めた効果を正当化するために,メジャメント(効果を測定する指標)を作るからだ。結果としてメジャメントは最後にできることになる。「本当はメジャメントが初めになければおかしい。メジャメントなしに予算を決めるのは土俵のないところで相撲をとっているのと同じだ」(松島教授)。

 松島教授は,メジャメントを最後に作ると,あいまいな指標しかできないという。「例えば,人件費の削減が期待できるシステムを構築したとする。しかし,平均年収が500万円の企業だとしても人件費は500万円とは限らない。企業年金や失業保険,保養所の経費や地代まで含めると2000万円くらいまで膨れ上がる。すると,人件費は500万円~2000万円のどこにでも都合よく決められる。『今回は2000万円で計算しましょう』ではおかしい」(松島教授)。

 このように場当たり的な投資対効果の算出をしないためには,企業ぐるみでメジャメント作りをしなければいけない。松島教授は「その企業の投資全般に関するメジャメントの一つとして,IT投資のメジャメントがあるべき」と主張する。「企業全体のメジャメント作りはシステム部門のプロジェクトマネジャの領域を越えている。経営問題として,経営企画や経理の担当者か,社長自らが策定しなければいけない」という。

(矢口 竜太郎=日経コンピュータ)