ドメイン名の使用権をめぐる裁判で,初めて登録者側が勝訴となる判決が東京地裁であった。「MP3.CO.JP」の登録者で,パソコン関連機器の開発を手がける有限会社システム・ケイジェイが,インターネット上で音楽配信事業を手がける米エムピー3ドットコム(MP3.com)を相手取って起こした,「MP3.CO.JP」の使用差止請求権がないことを確認する訴訟で,東京地裁は7月15日,原告であるシステム・ケイジェイの訴えを認める判決を下した。

 この裁判は,システム・ケイジェイが昨年6月に,ドメイン名の紛争処理機関である日本知的財産仲裁センターの裁定を不服として訴えていたもの。紛争処理機関の裁定が裁判で覆ったのも初めて。日本知的財産仲裁センターは昨年5月,「システム・ケイジェイは『MP3.CO.JP』を不正に使用しており移転を請求する」という米MP3.com側の訴えを認め,ドメイン名の移転命令を下した。

 システム・ケイジェイが紛争処理機関の裁定からの“逆転勝訴”を勝ち取った理由は,「不正の利益を得る目的,または他人に損害を加える目的がない」と認定されたからだ。判決によると,東京地裁は「被告であるMP3.comは『MP3』を冠した商号を有しており,その活動も広く一般に認知されていた。一方,原告が保有していた『MP3.CO.JP』上で実質的な利用はなかった」としながらも,「システム・ケイジェイが将来,音楽圧縮形式であるMP3に関連する事業を行い,同事業のために『MP3.CO.JP』を利用する可能性は十分認められる」と判断した。

 システム・ケイジェイの協力会社で,ドメイン名の運用管理を任されているという合資会社ジー・エヌ・エヌの安野和憲代表は,「今回の判決は当然の結果で胸を撫で下ろしている。米MP3.comの主張は言いがかりに等しく,紛争を持ちかけられた時は寝耳に水だった。システム・ケイジェイはMP3プレーヤなどMP3関連製品を開発しており,近々ホームページ上で製品に関する情報を公開する」としている。

 インターネットに関する法律問題に詳しく,「GOO.CO.JP」をめぐる裁判で登録者から移転を求めるNTT-X側の弁護にもついている森綜合法律事務所の横山経道弁護士は,「ドメイン名が不正な使われ方をしているか否かは事案によりけりで,今回は総合的判断で不正ではないと判断されたということ。被告が控訴すれば,また高裁でひっくり返る可能性もある。この判決はドメイン裁判全般に影響を与えるようなことはないだろう」と話した。

井上 理=日経コンピュータ