米IBMでフェローを務めるジェフ・ニック氏が来日。本誌記者と会見し,「これまでユーザー企業は,『情報システムに投資し,これを所有する』という意識で情報システムを運用してきた。だが今後は,『情報システムを経費感覚で運用し,自社にない機能は他社から借りる』という意識に変わっていくだろう。情報システムは,必要に応じて利用するユーティリティになる」(ニック氏)と語った。

 ニック氏は,グリッド・コンピューティングに関する標準化団体であるGGF(グローバル・グリッド・フォーラム)で,「四天王」と称されるトップ技術者の一人。GGFが進めている,グリッド・コンピューティングとWebサービスを融合した新しい技術仕様「OGSA(Open Grid System Architecture)」の策定に力を入れている。米IBMでは,先進システム・アーキテクチャ部門のディレクタを務めており,メインフレーム用のクラスタ技術である「Parallel Sysplex」などの開発を手がけた実績を持つ。

 ニック氏によると,OGSAが現実のシステムに適用されれば,「アプリケーションの処理に必要なコンピュータなどの資源を,必要な分だけ動的にアプリケーションに割り当てることが可能になる。ユーザー企業は,通常の処理に必要な資源だけを社内で持っておき,ピーク時などに不足する資源はサービス・ベンダーから借りる,という運用が可能になる」。

 仮にピーク時に必要な資源が通常時の10倍だったとすると,これまでピーク時に合わせて資源を用意していたユーザー企業は,これを10分の1に減らすことが可能になり,TCO(コンピュータ所有にかかる総コスト)が削減できる。「ユーザー企業は,コンピュータを社内に持つか社外に持つか,集中化するか分散化するか,といったことで悩まなくてすむようになる」という。

 さらに,自社内のアプリケーションにはない機能を他の企業が提供していた場合,これを動的に探し出し自社のアプリケーションと連携させることも容易になる。

森 永輔=日経コンピュータ