ドメイン名の紛争処理機関である日本知的財産仲裁センターの裁定により,「J-PHONE.CO.JP」および「J-PHONE.JP」が7月2日にジェイフォン(J-フォン,東京都港区)の手に渡ることが決まった。1997年8月に食品等の輸出入販売会社である大行通商(東京都港区)が「J-PHONE.CO.JP」を登録したことに端を発する“J-PHONE事件”は,約5年を経て終止符を打つ。このドメイン紛争は,まずドメイン名の使用差し止め判決が裁判で確定し,その後,紛争処理機関がドメイン名の移転命令を下した初めてのケースだ。

 J-フォンが「J-PHONE.CO.JP」の使用差し止めを請求する訴訟に踏み切ったのは2000年2月。紛争処理機関の運用が開始される8カ月前のことだ。それまで大行通商は,このドメイン名でアダルト・グッズや携帯電話関連用品を販売していた。

 J-フォンは2001年4月,東京地裁で勝訴を勝ち取る。大行通商は控訴したが,同10月,東京高裁は1審を支持する判決を下す。さらに上告したものの,大行通商の手数料不納付により上告は棄却され,同12月に判決が確定した。

 しかし,この確定判決ではJ-フォンは「J-PHONE.CO.JP」,および係争中に大行通商が「J-PHONE.CO.JP」を保有する優先権を使って取得した「J-PHONE.JP」を手中にすることができなかった。不正競争防止法に違反しているか否かが争点となる法廷でのドメイン紛争では,「ドメイン名の使用差し止め」の請求はできても「ドメイン名の移転」を求めることができないからだ。

 そこでJ-フォンは2002年4月,日本知的財産仲裁センターに対して移転を請求する申し立てを提出した。同センターは,日本のインターネットの管理団体であるJPNIC(日本ネットワークインフォメーションセンター)が定めた「JPドメイン名紛争処理方針」を根拠に,ドメイン名の移転命令を下すことができる。2カ月後の6月11日,「移転裁定」の結果が日本知的財産仲裁センターから通知され,7月2日に移転手続きが完了する。

 同じような例が,もう一つ生まれそうだ。カード大手のジャックス(北海道函館市)が提訴した国内初のドメイン裁判で争われた「JACCS.CO.JP」である。すでに「ジャックス勝訴」が確定している“JACCS事件”も紛争処理機関の裁定を待っており,早ければ7月中にも移転手続きを完了できる見通しだ。

 やっとの思いで「J-PHONE.CO.JP」と「J-PHONE.JP」を手に入れるJ-フォンだが,5年の歳月は長かった。J-フォンは世界最大の携帯電話会社である英ボーダフォンの傘下に収まり,ドメイン名を取り戻した現在は,皮肉にも徐々にボーダフォン・ブランドの浸透を図っている最中で,今年中にはJ-フォン・ブランドが消えると目されている。

 すでに「VODAFONE.JP」は英ボーダフォンが,「VODAFONE.CO.JP」はJ-フォンの株主であるメトロフォンサービスが取得済み。「www.vodafone.co.jp」は,「www.vodafone.com」へのリンクのみが張られた状態だ。現在,J-フォンがホームページに利用しているドメイン名は「J-PHONE.COM」。いつの日か「VODAFONE.CO.JP」あるいは「VODAFONE.JP」へ転送されるようになるのか。同社は,「J-PHONE.CO.JP」と「J-PHONE.JP」の利用用途について「未定」(広報担当)としている。

井上 理=日経コンピュータ