ケン・クライン氏 「みずほ銀行のシステム障害は,日本のIT業界に大きなインパクトになったはず。日本のIT関係者にとって,システムの稼働テストのあり方を見直すキッカケになるだろう」。米マーキュリー・インタラクティブのケン・クラインCOO(最高執行責任者)はこう指摘する。

 マーキュリーは,アプリケーションが滞りなく処理できるかを確かめるソフト「Topaz」を販売するとともに,仮想的に数万規模のユーザーが同時アクセスしたときのシステムの耐久性を検証する「LoadRunner」といったサービスを提供している。パフォーマンス監視などを代行するサービスも手がける。

 クライン氏は,「稼働テストはソフトを導入して自動化するべきだ」と主張する。「多くの機能を備えるアプリケーションをいちいち手作業で確認していては,時間がかかるし,コストもかさむ」からだ。さらにクライン氏は,「何千人ものユーザーが利用するシステムの負荷テストを,数人が手動で同時アクセスしただけで終わりというケースがある。これでは,本番に向けたテストをしたことにはならない」と語る。

 米国では,マーキュリーの製品やサービスを導入して,効果を上げている金融機関がある。米バンク・オブ・アメリカだ。バンク・オブ・アメリカは2001年10月から,マーキュリーのソフト「Topaz」などを,オンライン・バンキング用のWebシステムの監視に利用し始めた。

 バンク・オブ・アメリカは,マーキュリーの製品とサービスを導入することで,1日以内でシステムの問題切り分けと復旧ができるようになった。導入以前は2週間程度かかっていた。「これによりトラブルに見舞われることなく,顧客に対するサービスを提供しつづけている」(クライン氏)。バンク・オブ・アメリカは,2002年初めから,Topazなどで監視する対象を,オンライン・バンキング用システムだけでなく,社内にある他の業務システムに広げている。

 クライン氏によると,「米国でも1990年代後半に,AT&Tや,インターネット・オークションのイーベイといった企業で,社会的な影響を与えるようなシステムがトラブルを引き起こした。これらの事件以降,システム開発時のテストやシステムの運用監視を重視するようになってきた」と言う。1999年6月に発生したシステム停止のトラブルで,イーベイはオークション事業で300万ドルの損害と,株価急落による数十億ドルの損失をこうむった。

 「これから,みずほ級のシステム・トラブルが日本でどれだけ発生するかわからない。だが,そのようなトラブルが重なれば,テストや運用監視を重視する機運が,日本のシステム開発分野にも浸透していくだろう」と,クライン氏は推測する。

西村 崇=日経コンピュータ