アイオナテクノロジーズのニューカマーCTO 「当社がSOAP(シンプル・オブジェクト・アクセス・プロトコル)の研究を始めたのは2年前。その時点での予想よりも,Webサービスの立ち上がりは遅かった」。Webサービス構築用ソフトを手がけるアイルランドのアイオナテクノロジーズで,CTO(最高技術責任者)を務めるエリック・ニューカマー氏はこう分析する。「普及が遅れた理由は大きく三つある。明確な目的がなかったこと,アプリケーション連携製品の市場を握っているベンダーの存在,そして世界経済の停滞だ」と続ける。

 ニューカマーCTOによれば,「Webサービス技術に明確な利用目的がなかったことは,Webサイトの出始めのころと同じだ」という。「Webサイトは社内の情報共有手段という明確な目的ができたために,個人の“遊び道具”から脱却できた」。一方のWebサービスの場合,「当社が顧客企業に勧めているのは,手始めにEAI(エンタープライズ・アプリケーション・インテグレーション)に代わる社内システムの統合手段として使用することだ。このメッセージによってWebサービスの普及が拡大している」と,ニューカマーCTOは手ごたえを感じている。

 しかしニューカマーCTOは,「EAIベンダーの存在がWebサービスの普及を妨げている」とも語る。なぜなら「(同じ目的に利用できる)EAI製品があることが,顧客のパラダイム・シフトを遅らせる原因となっているからだ」。ニューカマーCTOはこの現象をテレビの普及を例にして説明した。「テレビの技術は1930年代にできたものだが,普及したのは1950年代から。それまで広く普及していたラジオの存在があったためだ」(ニューカマーCTO)。

 それでも,ニューカマーCTOは「これらの障害を乗り越え,Webサービスはようやく一般的になってきた」と強調する。「当社が米ボーイングに売り込みに行ったところ,先方のCIO(情報統括役員)は,企業内も企業間もWebサービスでシステム統合することのメリットを知っていた。『そんなことはIBMからもマイクロソフトからも提案された』と言われてしまった。最終的には“どの宗派にも属さない”当社製品を気に入ってもらえたが」と,ニューカマーCTOは満足げに締めくくった。

矢口 竜太郎=日経コンピュータ