サン・マイクロシステムズが「メインフレームをオープン・システムに移行できず,TCO(総所有コスト)を削減できていないことこそ,日本企業の重大な問題だ」(細井洋一取締役)とぶち上げたのに対し,同じ5月9日にメインフレームz900の強化モデル「z900ターボ」を発表した日本IBMは,「真のTCOはメインフレームが優る」とストレートに反論した。従来通りの反論を繰り返した形だが,今回のz900ターボの発表(米国ではz900ターボは4月30日に発表)では,ここ数年の日本IBMのメインフレームの発表とはちょっと違った,いくつかの新機軸が見られた。

4年ぶりに価格性能比を向上,価格例を明示

 記者が注目した最大の特徴は,日本IBMが4年ぶりに「価格例を明示」し,「価格性能比の向上」を明確に宣言したこと。日本IBMは,1998年5月のs/390 G5モデルの発表で「ハード/ソフト/保守料の合計が月額946万円から」「価格性能比を(従来比)約15%向上」と明示した。これを最後に大型メインフレーム製品の発表では,99年5月のs/390 G62000年10月のz900今年2月のz800とも,価格は「個別商談毎にサービス,ソフトを組み合わせて決定」として,明示していない。またこのs/390 G6,z900,z800はいずれも「価格性能比は従来機と同じで,性能向上の分だけ価格も上げていた」(星野事業部長)。

 今回のz900ターボでは日本IBMは,参考価格を4年ぶりに「ハードと保守料の合計が月額約1800万円」(最下位のモデル2C1,主記憶10GB搭載での5年リース月額。OSなどのソフト料を含まない)と明示。価格性能比も「約20%向上」と発表した。なおz900ターボは,性能自体がz900-1xxモデルより平均約20%向上しており,実質は“性能を上げて価格据え置き”である。

 この4年間にIBMメインフレームのソフト価格体系は大幅に変わっているし,こうした“公称価格”が実態価格を反映しないのはメインフレームの世界では悪しき常識。とはいえ,サン日本法人がSun Fire 15Kを最小構成価格2億8236万9000円(16プロセサ構成,Solarisを含む)と“公称”しているのをにらんで,「直接費用もそん色ない」と主張したい日本IBMが,メインフレームの参考価格の再公開に出たと言えよう。

単一機種としての「eLiza」の完成形に到達

 もう一つ記者が注目したのは,今回の発表で実質的にIBMが「zSeriesでは運用管理の自動化はほぼ完成した」と宣言したことである。IBMは4つのサーバー・シリーズ(インテル・プロセサのxSeries,UNIX機のpSeries,AS/400後継のiSeries,メインフレームのzSeries)を対象に,システム停止の自動回避,資源の自動割り当てなどの自己管理機能を実現する開発計画eLizaを展開している。

 例えば,負荷に合わせて論理区画ごとに資源を自動配分するインテリジェント・リソース・ディレクタ(IRD)機能について,「zSeriesでは資源(プロセサ,主記憶,入出力帯域幅が対象)を細かい%単位で,“呼吸するように”自動配分できる。他社サーバーではまだ論理区画の単位がプロセサの個数など大きく,自動調整もできない」(星野事業部長)とその完成度を強調した。ただしよく調べてみると,IRDは2年前に発表したz/OS 1.1ですでに実現ずみの機能である。

 また複数の遠隔センター間で,光チャネルFICONのディレクタ(LANのスイッチにあたる中継機)同士を広域ダーク・ファイバで接続して,一体のシステムとして運用可能にする開発計画を示した。

 これらのポイントを踏まえて星野事業部長は,「(eLizaの目標は)zSeries単体では,ほぼ完成の域に達した」と語る。今後の課題は「異機種のサーバーをネットワークで接続した“グリッド・コンピューティング”の状態で,同様の資源の自動割り当てなどを実現し,機種を意識せずに使えるようにする」ことだという。

ハードの強化でTCOを削減する

 サンの挑戦に対して今回日本IBMは,「他社が『メインフレームよりオープン系サーバーの方がTCOが安い』と主張する時,実際にはハードやソフトの直接費だけを指していることが多い。本当のTCOでは,オープン系サーバーを多数抱えると,運用の人件費が直接費用以上にかかる。複数の分散サーバーをIBMメインフレームに統合すれば,直接費用はほとんど変わらず,人件費が大幅に減る」(星野裕エンタープライズ・サーバー製品事業部長),「zSeriesはメインフレーム用ソフトの資産やスキルがそのまま使える。同じ業務をやるためにプラットフォームを変更する必然性はない。(eビジネスなどの)新しい業務システム構築のための基盤もzSeries上に実現している」(橋本孝之取締役)と反論した。

 これは日本IBMの従来通りの主張だが,今回の発表でちょっと目新しかったのは,橋本取締役が「TCOの削減を,ソフトやサービスの力を借りずに,ハードでできることはハードでやることで実現する。IBMはハード技術にこれからも徹底して投資する」と,“ハードでTCOを削減”という方針を繰り返し語った点だ。メインフレーム事業から腰が引け気味で,「ソフトやサービスにシフトする」と繰り返している国産メーカーとは極めて対照的であった。

(千田 淳=日経コンピュータ)