経済産業省は6月末,中央省庁で初めて,SLA(サービス・レベル・アグリーメント)の考えを取り入れた入札を実施する。対象は,2003年3月に稼働させる予定の「METI(経済産業省)PC-LANシステム」。経済産業省はMETI PC-LANシステムの構築にあたり,担当ベンダーに対して,稼働率の保証,ITベンダーにおける責任者の選任,システム拡張時の価格保証などを求める。

 METI PC-LANシステムの開発を担当する経済産業省情報システム厚生課の名井肇課長は,「SLAを採用する狙いはまず第1に,システムの稼働率を高めること。加えて,障害が発生したときに迅速に正常化させるための手順を明確にできる」と語る。

 具体的には,本省で利用する電子メールやグループウエア・システムは99.9%,地方局の場合は99.8%,という具合に月間の稼働率の保証を求める。これを満たせなかった場合,ITベンダーは翌月の14日までに改善策を提案し,実行しなければならない。改善にかかった費用はITベンダーが負担する。

 仮に,サーバーの追加や上位機への交換などが必要になった場合も,費用はITベンダーが負担する。翌月も稼働率を満たせなかった場合,ITベンダーは関係する機器すべてを交換する義務を負う場合がある。

 責任者の選任は,「障害の予防と,障害が発生したときに,ベンダーに全社協力体制を取ってもらうために講じる措置」(名井課長)である。経済産業省とITベンダーとのやりとりは,すべてこの責任者を通じて行う。そして,システム導入作業が2週間以上遅れた場合や,稼働率が満たせず改善策を講じる必要が生じた場合は,この責任者をMETI PC-LANシステムの専任にすることを要求できる。

 さらに経済産業省は,同一の機能障害が1カ月以上続く場合や,同一の機能障害が3カ月の間に6回以上起こった場合には,責任者の交代を要求できる。ITベンダーは,責任者の交代という“恥”を避けるために,全社一丸となって障害の復旧に当たらなければならなくなる。

 「システム拡張時の価格の保証」とは,システム拡張時の随意契約を避けることが狙い。導入した時に1台1万円だった機器を,3年後に10台増やす必要が生じた場合,経済産業省は,1台1万円,もしくは,この時点における機器の市場価格のうち,どちらか低い値段で機器を調達する権利を持つ。

 経済産業省は仕様書を策定するに当たって,仕様書案をWebサイト上に公開し,パブリック・コメントを求めた。この結果,より現実的なサービス・レベルを定義できたという。

 たとえば本省で利用する電子メールやグループウエア・システムの場合,当初は99.95%の稼働率を求めていた。しかし,「99.95%を保証するのは現実的には困難」という意見が数多く届いたことから,99.9%に引き下げた。可用性の維持という観点から見ると一歩後退した観があるが,「現実的でない数値を設定したために,応札者が現れないという事態に陥っては元も子もない。パブリック・コメントを集めた甲斐があった」(情報システム厚生課)という。(森 永輔=日経コンピュータ