米スタンフォード大学ビジネス・スクールのロバート・A・バーグルマン教授

 米ヒューレット・パッカード(HP)と米コンパックコンピュータは,合併に向けた最終段階に入りつつある。ハイテク大手企業の戦略分析を手がけるスタンフォード大学ビジネス・スクールのロバート・A・バーグルマン教授は,両者が合併する上での課題は「コモディティ事業を支える営業力リードの文化」,「ハイエンド・サービス事業の成功に不可欠な緊密な顧客関係を推進する文化」,「研究開発をベースとするイノベーション文化」の融合にあると分析する。異なる三つの文化が生み出す新たな緊張関係を,HPのフィオリーナ会長,コンパックのカペラス会長はどのように対処するか。これが非常に大きな課題だという。


 全文は「日経コンピュータExpress 独占インタビュー----三つの異文化融合に挑戦するHPとコンパック」でお読みください。


 この合併について,組織論の点から論じていただけますか。
 合併の承認や手続きが決まったら,それが最高の決定であろうがなかろうが,新会社が一つの組織としてうまく機能するよう移行させていくことが最優先だ。
 HPの社内でも,プリンタ/画像関連事業とコンピュータ事業の間に,従来からかなり“不協和音”があるようだ。前者は世界市場の覇者であり,後者はまだまだそこまでいっていないから無理もない。こうしたなかでコモディティが主力のコンパックと統合するとなれば,両部門間の不協和音はさらに悪化するだろう。新生HPにはこうした組織上の問題を解決していく強いリーダーシップが求められる。

 両社の合併については悲観論も少なくありませんが,あえて「成功のシナリオ」を描くとしたら,どのような展開が考えられますか。
 新生HPの第一の課題は「中核事業においてライバルとの競争に勝ち続けること」。だが新会社の組織は顧客サービス部門と製品部門とを別々にするため,長期的な目標に対する短期目標の達成責任が分散されることになる。その結果,全体責任の所在が不明確になり,「ライバルに勝つ」という課題の達成が難しくなる。
 第二の課題は「事業部門間における相乗効果創出」。経営トップが相乗効果創出を誘導しなくてはならない。少なくとも,2~3年はかかるだろう。ひとたび相乗効果が出てくれば市場で優位に立てる。
 第三の課題は「イノベーションの創出」。すなわち,新たな事業機会を大胆に創出していくことである。イノベーションこそがHPの伝統的な強みであった。しかし,コンパックを合併するとのフィオリーナ会長の決定は,少なくとも現時点でHPの社内に新規事業を力強く生み出しうるイノベーションが存在しないことを認めているようなものだ。一方ウォルター・ヒューレット氏の事業構想の焦点は,伝統的な強みであるイノベーションの創出にある。だがヒューレット氏は,ある程度の規模を持つイノベーションが社内にすでに存在する,もしくは今後独力で生み出していけることの証明ができていない。だから,氏の主張も説得力に欠ける。

 コンパックにはHPと違って研究開発に多額を投じる風土はない。仮に新会社が研究開発費を削ってコモディティ事業に力を入れ,革新技術の企業文化から営業力リードの文化へと比重を移すことにでもなれば,社内で大変な衝突が起こることになる。
 ハイエンド・サービス事業についていえば,HPはIBMより10年遅れている。HPは,コンパックとの合併とは別に,何らかの方法でハイエンド・サービス事業を強化する必要がある。以前の米プライスウォーターハウス・クーパース(PwC)のコンサルティング事業部門買収の計画は市場が評価せず中止を余儀なくされたが,この点から判断すれば,PwCを買った方がよかったのではないかと思われる。

(聞き手はアキヨ・ブラウン=在米ジャーナリスト)