史上最年少で株式上場を果たし,時代の寵児として一躍有名になった元クレイフィッシュ社長の松島庸氏が,創業から光通信の重田社長との出会い,そして一連の社長解任劇へとつながる騒動を赤裸々に綴った告白本を出版することが明らかになった。4月中にも東洋経済新報社から発売される。すでに原稿は書き上げ,現在は校正作業の段階だという。

 告白本のタイトルは「追われ者」。同書のなかで松島氏は,まさに自ら創業し上場へと育て上げた会社から追われる身となった自身の体験を克明に記している。松島氏が一連の騒動を引き起こしてしまった一番の原因として上げる,「光通信の関係者を信用し,紹介されるがままに相手の話に乗ってしまった」経緯などにも触れている模様。松島氏は昨年5月18日,社長名義の株式を担保にした融資問題の責任をとって社長を辞任した。この融資を受けた相手が「光通信関係者から紹介された」人間だ。

 しかし,本の内容は単なる“恨み節”や“暴露話”でもないようだ。松島氏は「社長辞任に追い込まれた最後の時期は光通信の関係者と思わしき人間から,いろいろと怖いことを言われたりもした」と話すが,そうした“どろどろ”とした裏話には「あまり触れていない」とする。

 その一方で,「一連の騒動を振り返りながらも,起業する人々の参考になるような内容にした。インターネット業界の特性などに対する自論も展開してみた」と話す。現在松島氏は,クレイフィッシュの社長辞任直後に設立したベンチャー,エム弐拾八(東京都港区)で,再起を賭けて新事業を模索している。起業家として出直す過程で,自分への戒めの意味も込めて同書を綴ったというわけだ。

 そのエム弐拾八の事業内容は当初「ブロードバンド関連事業」とされていたが,現在動いている話は「非ネット系」のものが中心のようだ。松島氏は,「建築資材の売買を行う工務店ネットワークの構築や,手数料を抑えたクレジット・カードの決済サービスといった事業を,複数のパートナ企業と煮詰めている段階。ブロードバンド関連の事業は収益性が悪いので,計画を中断した」と明かした。それ以上の詳細については,「もう失敗はできない。構想だけぶち上げて,その通りに行かないのは許されない空気があるので,しっかりと事業内容や実現性が固まった段階で公表したい」と,さすがに慎重な構えだ。

 告白本の出版で過去を清算し,心機一転新事業に集中したいところだが,皮肉にも今回の出版は過去の闇を再び呼び戻してしまったようだ。松島氏によると,「しばらく収まっていた不穏な動きが,最近また見られるようになってきた。どうやら,調査を頼んだ会社によると,興信所の人間が尾行しているようだ」という。また,「近い人間をつたって私に接触を試みる動きもある。昔の関係者が,本の内容を気にしているのではないか」と,光通信の関係者による“監視”を示唆した。

 日本では「失敗が許されない空気があるから起業家が育たない」とする向きも多い。しかし,松島氏は弱冠28歳。本人曰く「一時は2000億円あった資産が,ほとんど消えてしまった。大きな失敗を経験したが,まだまだやり直せる年齢」。一連の騒動に関する功罪は別として,松島氏が再び起業家として成功すれば,少なからず起業家や企業を目指す人々に希望を与え,ベンチャー界に新しい空気を吹き込むだろう。その意味でも,告白本が松島氏の最後の話題とならなければ良いが。

(井上 理=日経コンピュータ)