ドメイン名の紛争処理機関が下した「『sonybank.co.jp』をソニーへ移転せよ」という裁定を不服として,ドメイン名の登録者がソニーを訴えていた事件で,東京地方裁判所は11月29日,原告の要求を退けソニー勝訴の判決を下していたことが分かった。

 これまで,国内唯一の紛争処理機関である日本知的財産仲裁センターの裁定結果を不服とする提訴は「goo.co.jp」事件など3件あったが,そのうち判決が出たのは今回が初めて。ドメイン紛争を解決する民間ルールに基づく紛争処理機関の裁定を,裁判所が初めて支持する判決でもあり,続く2件の裁判にも影響を与えそうだ。

 東京地裁の三村量一裁判長は,「原告である合資会社壱の行為は,JPドメイン名紛争処理方針による『不正な目的』に該当する。よって,紛争処理機関の裁定に従う義務がある」とし,紛争処理機関の裁定結果を全面的に支持する判断を下した。

  「sonybank.co.jp」に関する紛争は,酵素栽培命泉茸が,ソニーがインターネット銀行を設立する新聞報道があった直後の昨年1月,同ドメイン名を登録したことに端を発する。その後の経緯は不明だが,同ドメイン名は昨年12月,投資コンサルタント会社であるとする合資会社壱(新潟県長岡市)へ移転された。これを「不正な目的」と主張するソニーは今年1月18日,日本知的財産仲裁センターに対して「移転」を申し立てた。

 日本知的財産仲裁センターは今年3月,壱に同ドメイン名の移転を命じる裁定を下したが,これを不服とした壱は,東京地裁へソニーを相手取り提訴。「裁定日から10日以内に出訴があった場合は裁定結果の実施を見送る」とのルールから,「sonybank.co.jp」の所有権の行方は,裁判の結果を待つ格好となっていた。

 JPドメイン名を管理する日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)の丸山直昌副理事長は,「民間ルールであるJPドメイン名紛争処理方針(JP-DRP)の関係者にとっては,画期的とも言える判決だ。JP-DRPの内容にまで踏み込んで判断を実施したことは,JP-DRPを作り運用する側として本当に嬉しいこと」と評価する。

 ソニーは,「このたびの東京地裁の判断は,極めて正当であり,当然の結果だと考えている。日本知的財産仲裁センターの裁定と本判決に従って,速やかに当該ドメイン名の登録名義がソニーに移転されることを希望する」(広報)としている。

井上 理=日経コンピュータ