ソニー・グループなどが出資するビットワレット(http://www.bitwallet.co.jp/)は11月7日,電子マネー・サービス「Edy(エディ)」を,11月から本格的に開始したと発表した。

 Edyは,専用の端末を使って最大5万円までの“マネー”を蓄積できる,プリペイド方式の非接触型ICカード。店頭などの“リアル”で利用する場合は,レジ脇の装置にカードをかざすだけで決済できる。電子商取引(EC)サイトなどの“サイバー”では,専用装置をパソコンにUSBで接続し,購入時にカードを専用装置に置くことで決済できる。将来は,カードだけではなく,携帯電話やPDAにEdyの機能を組み込むことも計画している。2003年度までに,Edyが利用可能なカード850万枚,Edyの決済に対応する加盟店2万3000店舗を目指す。

 ビットワレットへの出資が48%と最大株主であるソニー・グループのトップ,出井伸之ソニー会長兼CEO(最高経営責任者)は発表の場で,「電子マネーは世界中で成功した試しがない。だが,ソニーにはICカードや電子マネーの分野で13年の技術の蓄積がある。香港の公共交通機関などで利用されているプリペイド方式のICカード『オクトパスカード』も,ソニーの技術。オクトパスカードはセブン・イレブンやスターバックスといった店舗でも利用できるようになって来た。日本でも絶対にうまくいくと思う。Edyは絶対いける」と太鼓判を押した。

 ビットワレットの川合成幸社長は,大きく三つの理由でEdyが成功すると主張した。「まず,Edyはだれでも簡単に素早く利用できる。店頭では小銭を出す必要がないし,レジ作業も早くなる。次に,リアル,サイバーどちらにも対応しており利用用途が広がる。最後に,実績のあるソニーの非接触式ICカード技術『FeliCa(フェリカ)』の採用で,最新技術に対応できた。FeliCaを採用したカードは世界で数千万枚発行されているが,今まで1枚も偽造がない」。

 Edyの利用可能な加盟店としては,コンビニ・チェーンの「am/pm」が2002年夏までに全店舗で利用可能にする。時間貸駐車場「タイムズ」を運営するパーク24や品川インターシティといった商業施設も,順次Edyを利用可能にすることが決まっている。サイバーでは,So-netやSonyStyle.comなどソニー・グループのイーコマース・サイトが今年末から来春にかけて対応するほか,トヨタが運営するGazooも2002年2月からEdyを使えるようにする。

 ただし,Edyが成功するかどうかは未知数だ。出井会長が言うように,ICカードを利用した電子マネーの実証実験は約15年も前から世界各地で繰り広げられているが,いまだに普及に至った事例はない。特に日本では,店頭での決済方法は,現金,クレジットカードに加え,銀行口座から直接引き落とすデビットカードと多様化している。その上に,ネットでの決済方法もクレジットカードや少額決済向けプリペイド・カードなどが乱立している状態だ。しかも,ICカード型の電子マネーでは,米マスターカードが推進する「Mondex」といった規格がいくつかある。

 こうした状況下では,Edyを利用する明確なメリットが無ければ,普及に至るのは難しいだろう。普及へのカギとなる加盟店の顔ぶれを見ると,現段階ではリアルでもサイバーでもソニー・グループが目立つ。出資企業には,トヨタやNTTドコモ,KDDIといった“大物”が顔をそろえているものの,「Edyの可能性はあると思うが,具体的な利用用途は白紙に近い」(トヨタファイナンスの山口千秋専務取締役)と,まだまだ様子見の段階だ。

 Edy普及へのもう一つのカギを握っているのは,携帯電話。携帯電話ならほとんどの人が持っている上,Edyが携帯電話と融合すれば,現在の残高を容易に確認できたり,ネット経由で残高を増やせるなど利便性も高いからだ。しかし,ビットワレットに出資するNTTドコモやKDDIの動向を聞くと,「携帯電話との融合に関しては,何もしゃべれない。いろいろあるので…」(ビットワレットの川合社長)と歯切れが悪い。はたしてソニーは,「世界で初めて電子マネーを成功させた」企業になれるだろうか。

井上 理=日経コンピュータ