「企業に一番大切なのは会社と社員の信頼関係だ。私が書いた“ザ・ゴール”の中でも,一人も解雇せずに工場を立て直す過程を示した。日本にとって一番重要なのは,信頼関係を強固に築ける終身雇用制度を残すことだ」。TOC(制約条件の理論)の提唱者であるエリヤエフ・M・ゴールドラット博士は11月1日,こう語った。

 「日本の製造業は復活するか」という質問に対して,ゴールドラット博士は,「復活する」と断言。「今、崩れつつある日本の終身雇用制度は日本固有の制度だが,むしろ日本の強み。日本の製造業は終身雇用制を保ちながら復活できるだろう」と説明した。

 「“ザ・ゴール”は日本で3カ月間のうちに30万部売れた。米国では,最初の3カ月で3000部,今でも年間3万部程度売れているだけだ。日本人は新しい考え方を取り込むのが早く,TOCを実践しようとしたら,あっという間に実践するだろう」。

 ただし,「日本の製造業が復活するといっても,過去のように日本が世界の度肝を抜くことはあり得ない。なぜなら,欧米は日本を常に観察しているからだ。これからは,グローバル・レベルの競争が続いていく」と博士は付け加えた。

 ゴールドラット博士は,母国イスラエルに本社がある日本テクノマティックス(http://www.tecnomatix.co.jp/)が主催した講演会のために来日し,記者会見した。

 ゴールドラット博士が執筆した“ザ・ゴール”は,米国で1983年に発売された。しかし,「当初,日本での発売を禁止していた」(ゴールドラット博士)ため,日本で発売されたのは18年後の2001年だった。

 この理由としてゴールドラット博士の「日本嫌い」が噂された。だが,博士は,「18年前,日本の製造業は世界一だったから,日本での発売を禁止していた。最近になって,欧米諸国が日本に追いついた。だから日本での出版を許可した」と説明した。(島田 優子=日経コンピュータ