KPMGビジネスアシュアランスの相馬すんだらん氏
 KPMGビジネスアシュアランスのInformation Risk Managementグループで,ITにかかわるリスク診断や投資対効果などのコンサルティングを手がける相馬すんだらんディレクター(写真)が,日経コンピュータと会見。日本企業のIT投資の問題点を厳しく指摘した。以下は,すんだらん氏の発言。

 現在の不況下でも,企業のIT投資は着実に増えている。米国企業では,年間のIT予算のうち3割から5割は新規案件への投資だ。そこまでは行かないが,日本企業も新規案件へのIT投資は少なくない。

 だが,日本企業では,IT投資の効果に対する疑問や不満の声をよく耳にする。「ここまで投資したのに,なぜ効果が上がらないのか」,「何十億円も投資してERPパッケージを導入したのに,何一つ効果が見えない。不便になっただけだ」,といった具合である。

 こうした声がなくならないのは,経営陣がIT投資を行う前に,「どんな効果を期待するのか」という目標を,きちんと設定していないからだ。目標設定の重要性については昔から言われ続けているが,目標があいまいなまま大規模プロジェクトを走らせてしまうケースがいまだに散見される。

 その理由の一つとして,「ITベンダー任せ」,「ITベンダーの言いなり」で,なし崩し的にプロジェクトを立ち上げてしまうことが挙げられる。ユーザー企業自身が何を期待しているのかを自覚していないのに,満足のいく情報システムを作れるわけがない。実はIT先進国と言われる米国でも,こうしたケースは意外に多い。

 目的を明確にしてIT投資を行ったとしても,その効果を的確に把握することは難しい。当社は,投資対効果の評価指標として,「KPI(キー・パフォーマンス・インジケータ)」をクライアント企業に提案している。これは,在庫回転率や顧客満足度といった,効果を測定するための数十~数百の指標をまとめたもの。IT投資によって,各指標の数値がどう変化したかを測定する。既に日本でも,サービス業と金融業の企業がそれぞれ1社ずつ,KPIの利用を始めている。

 IT投資の効果はすぐには見えない。最低でも1年間,こうした指標を使って継続的に観察することが必要だ。これによって,IT投資と各指標の数値との因果関係をつかめば,効果的なIT投資が可能になる。人間が健康のために自分の血圧や脈を測ることと同じだ。

 IT投資がうまくいかないと,「IT部門の責任者に問題がある」ということになりがちだが,それは間違っている。ITと経営戦略が切り離せない現在,経営陣が責任を取るつもりでIT投資に取り組む必要がある。

聞き手は高下 義弘,玉置 亮太=日経コンピュータ