「安値落札は,日本を代表する大手ベンダーがシステムの価値を自ら放棄していることの現れだ。日本のIT(情報技術)産業の国際的な後進性を露呈しており,極めて遺憾」。システム・インテグレータの業界団体である情報サービス産業協会(JISA)の佐藤雄二朗会長(アルゴ21会長)は,日立製作所が9月19日に東京都庁の総合文書管理システムの開発を750円で落札したことについてこう語る。

 日立が「パッケージ・ソフトを利用することで低価格化を実現した」と説明したことについて,佐藤会長は,「パッケージによる低価格化といっても常識的なレベルがある。750円では入札の申込みに行くための電車賃にもならない」と指摘した。

 本誌の問い合わせに対し,大手システム・インテグレータ各社の社長も遺憾の意を相次いで表明した。

 「他の自治体も立て続けに750円で発注していったら,日立の担当部門はどうなるのか。赤字にならざるをえないのではないか」(新日鉄ソリューションズの棚橋康郎社長)。

 「価格の割引範囲には常識の範囲がある。採算を度外視しているとしか思えない」(TISの船木隆夫社長)。

 「官公庁向けのこうした入札にともなう赤字を,一般企業など他のビジネスで補っていると考えざるをえなくなる」(伊藤忠テクノサイエンスの後藤攻社長)。

 かねてより官公庁の情報システムの調達に関連した超安値落札は後を絶たない。公正取引委員会は1月31日に,NTTデータ,日本IBM,日本ユニシス,松下通信工業の4社に対して,「安値落札を続ければ独占禁止法に触れる可能性がある」と口頭で注意していた。

 なお,パッケージによる低価格化という日立の説明は次のようなものである。
・都庁の総合文書管理システムは日立のDP1/episimoというパッケージ・ソフトを利用する。
・都庁の仕様を検討した結果,DP1/episimoをほぼそのまま導入できることが分かった。
・DP1/episimoは,別の案件で開発したソフトをパッケージにしたもの。このため,DP1/episimoの開発にかかったコストは9万円である。
・この9万円を10年かけて回収する。つまり毎年9000円,月にして750円を最低売り上げればよい。このため,750円で入札した。
中村 建助,大和田 尚孝=日経コンピュータ