「日本の商慣習でぜひとも変えて欲しいのは,ユーザー企業が我々の技術者の出席をとることだ。出席をとられると我々は開発の生産性を挙げようとする努力をしなくなる。1000人でできる仕事を500人でやってのけると,売り上げが半分になってしまうからだ。技術者の頭数ではなく,成果物について対価を払っていただける商慣習に変えていくよう,広く呼びかけたい」。日本IBMの大歳卓麻社長は8月30日の記者会見でこう提言した。

 一般に日本ではユーザー先に技術者を送り込んでシステムを開発することが多い。その場合,ユーザー企業は,技術者の頭数に単価をかけた金額をベンダーに支払う。こうなると,開発期間が伸びれば伸びるほど,ベンダーは儲かるという妙なことになる。「出席をとるユーザーは結局,高いコストを払っている」(大歳社長)。

 ただし,出席をとる商習慣は過去30年来続いている。自ら出席簿をつくってユーザーに提出するベンダーも多い。この点を大歳社長に問うと,「少なくもとIBMはこの商習慣の中では居心地が悪い。仕事を持って帰れば,2倍の仕事をすることも可能だ。要はきちんとしたシステムができあがることが重要で,技術者を買う必要はない」。

 大歳社長は,出席をとる弊害として,「地方でシステム開発ができない」とも指摘した。「東京への過度な一極集中は改善すべきだ。自分が地方出身だから思うのだが,人間的な生活をおくるには地方のほうがいい。しかし,現実にはユーザーが出席をとるので,地方でシステム開発の仕事はできない。そのためみんな東京に出てくる。インドのIT企業がインドにいながら米国の仕事をしているのと大きな差がある」。(谷島 宣之=日経コンピュータ