日本テレコムとADSL(非対称デジタル加入者回線)事業者のイー・アクセス(東京都港区)は8月30日,ADSLサービスをはじめとしたブロードバンド事業の推進に関して戦略的提携を結んだ。この提携を機に,日本テレコムはイー・アクセスの第三者割当増資を引き受けて40億円を出資。日本テレコムはイー・アクセスの筆頭株主(約15%を保有)になる。

 日本テレコムは自社のADSLサービスとして「J-DSL」を提供しており,イー・アクセスは10社以上のインターネット接続業者に対してADSL回線をホールセール(卸売り)している。両社が各地に展開しているADSL設備やネットワーク回線について共有化を図ることで,コストを削減し,お互いにADSLサービスを展開しやすくするのが狙いだ。

 日本テレコムは今回の提携により,日本で早期にADSLサービスを始めたイー・アクセスのノウハウを受けられる。一方のイー・アクセスは,大手通信業者である日本テレコムの資金力をバックに,ADSLサービスの拡大や将来の本命となるFTTH(ファイバ・トゥ・ザ・ホーム)サービスへの地歩を固められる。顧客ターゲットについては,日本テレコムが地方を含む全国地域を受け持ち,イー・アクセスが東京都内や大阪など都市部を中心に開拓を進めることですみ分けるとしている。

 イー・アクセスの千本倖生代表取締役CEOは,今回の提携で「ADSLサービスの料金設定についてフレキシビリティ(柔軟性)が大きく高まる」と語り,ADSLサービスのさらなる値下げの可能性も示唆した。ヤフー(東京都中央区)が6月末に月額料金3000円以下という衝撃的な料金設定でADSLサービス「Yahoo! BB」を発表。各ADSL事業者は「ヤフーの料金では完全に赤字。あのやり方には追従しない」としながらも,「体力の限界に挑戦」と言わんばかりの“値下げ合戦”を繰り広げている。日本テレコムとイー・アクセスは提携関係を結ぶことにより,こうした値下げ競争とFTTHサービスの展開を二人三脚で乗り切る考えだ。「お互いにコスト面・規模面でのメリットを享受し,高度なサービスを展開していきたい」(日本テレコムの村上春雄社長)。

 今回の2社の提携は,決して「ヤフー対抗」が発端ではないという。イー・アクセスの千本CEOは「それ以前から,日本テレコムの村上社長とはADSL事業を協力し合って進められないかと話をしていた」と語る。ただし,一気に提携へと踏み切るきっかけになったことは間違いない。「ヤフーには感謝している。ヤフーの発表があったからこそ,こうして日本テレコムと戦略的提携を結び,コスト面についてしっかり考えていく機会ができた」(千本CEO)。

高下 義弘=日経コンピュータ