JPドメイン名の登録・管理を行う日本レジストリサービス(JPRS,http://jprs.jp/)が打ち出した「日本語ドメイン名を使えるようする新サービス」の実態は,日本語ドメイン名の推進にJPRSが取り組んでいることを示す示威行為と言える。このサービスはあくまで暫定的な措置であり,日本語ドメイン名の普及はまだ遠いというのが実情だ。

 JPRSが7月31日に発表した新サービスは,「8月27日から,マイクロソフトのInternet Explorer(IE)のユーザーが日本語JPドメイン名(日本語.jp)を閲覧できるようにする」というもの。JPRSは,米リアルネームズという企業と契約し,「日本語.jp」がマイクロソフトのIEのアドレスバーに入力された場合,リアルネームズ側で日本語部分をアルファベットに変換し,該当するURLへ転送してもらうようにした。

 このサービスは,アドレスバーに日本語を入力するとドメイン名ではなくキーワードとして認識するIEの機能を利用している。キーワードとして認識した場合,マイクロソフトの検索サイト「MSNサーチ」に自動的に検索しに行き,検索結果をブラウザ上に表示する。リアルネームズは米マイクロソフトと提携し,IEのキーワード検索機能を応用して,キーワードを直接指定のURLへ転送するサービスを有償提供している。

 しかし,新サービスによって日本語ドメイン名が普及するとは言いがたい。第1に,根本的な問題として,新サービスがIEに限定していることがあげられる。メール・ソフトで利用することができないし,IEのマッキントッシュ版でも利用できない。さらに,IEを使っていても,FTP転送やリンク用途に日本語ドメイン名を使用することもできない。つまり,日本語ドメイン名をフル活用できているとは言いがたい。

 第2に,閲覧可能な日本語ドメイン名のWebサイトの数がまだまだ少ない。現在,日本語JPドメイン名は,約6万件の登録数がある。ただし,登録者がアルファベットに変換されたURLをDNSサーバーに登録し,かつWebサーバーを新たに立てるか,既存のWebサーバーに転送するように設定する作業をしないと,ユーザーはアクセスできない。

 この作業を,多くの登録者がするとは考えにくい。というのも,日本語ドメイン名をアルファベットのURLに変換するエンコード方式がまだ固まっていないからだ。登録時点では,「RACE」と呼ばれるエンコード方式が有力だったため,とりあえず日本語.jpの登録作業はRACEで行われた。

 しかし,その方式の標準化作業を担当するIETF(Internet Engineering Task Force)は,RACE方式をあきらめ,「DUDE」「MACE」「AMC-Z」のどれかに決定すると明言している。となると,現在の登録者がRACEで変換しておいても,将来,新しいエンコード方式に切り替えてDNSサーバーに再登録せざるをえない。再登録時に,新たな作業や費用負担が生じるため,現時点での設定作業を敬遠する登録者は多いだろう。

 第3に,今回のサービスは,マイクロソフトの方針一つで提供できなくなる可能性がある。「今回のサービスは,リアルネームズとの契約に基づいており,マイクロソフトのIE開発部隊と協調しているわけではない」(JPRS広報)。

 もし,マイクロソフトが,IEのキーワード機能をやめ,アドレスバーに入力された日本語をドメイン名と認識し,独自にアルファベットのURLへ変換する機能を実装したら,今回のサービスは必然的に中止ということになる。

 JPRSは,「新サービスは,マーケットの要請がある限り続けていく」(広報)と説明する。しかし,サービスの命運は事実上,マイクロソフトに握られているため,「いつまで続けられるか分からない」というのが正直な所だろう。

 このサービスのための投資額やリアルネームズへ支払う料金について,JPRS広報は,「費用は全部JPRSが払う。額は一切非公表」としている。
井上 理=日経コンピュータ