「20年ぶりに集中している」と孫社長 ヤフーなどソフトバンク・グループは,ADSL技術を使ったインターネット常時接続サービス「Yahoo!BB(ヤフー・ビービー)」を開始する。Yahoo!BBの通信速度は,下りが最大8Mビット/秒,上りが900Kビット/秒と,ADSLサービスとしては日本最速となる。月額利用料金はADSL通信料が990円,インターネット接続料が1290円の合計2280円と,これまた日本最低の料金だ。ソフトバンクの孫正義社長は,「創業以来20年ぶりに集中し,賭けている」。この事業で,年内100万人の加入者獲得を目指す。

 現在,加入者が約10万人と最も多いNTT東西地域会社のADSLサービス「フレッツADSL」を利用すると,インターネット接続料込みで約6000円程度かかる。今回のサービスは,フレッツADSLの3分の1に近い料金で,5倍以上の最大通信速度を提供することになり,NTT東西を含めて,他のインターネット接続事業者(ISP)が打撃を受けることは必至だ。

 まずは,6月20日から加入料・利用料が一切無料の試験サービスを東京23区内で開始し,8月1日から加入料無料の本サービスを開始する。試験サービスの受付,および本サービスの予約は,6月20日午前0時からYahoo!Japan上の専用ページ(http://bb.yahoo.co.jp/)で受け付ける。試験サービスの目標人数は20万人で,対象エリアは東京23区内(一部地域を除く)。8月1日の本サービス開始時には,首都圏全域を対象とする予定。その後,「年内に人口比率70%程度をカバーする。NTTとの調整もあるが,夏休み中には大阪や名古屋にも展開したい」(孫社長)考えだ。

 気になる収益性だが,孫社長は「これだけ安い値段でこれだけの性能を提供するのは,思い切った経営判断だった。毎月の定期収入プラス,Yahoo!Japanに設ける専用のコンテンツ利用料で得る収入で,総合的に収益を上げていく」と語る。この専用コンテンツは,Yahoo!BBの加入者しか見ることができない。映画やミュージック・ビデオ,プロ野球中継など豊富な動画を,1本あたり数百円の料金で提供する予定。

 唯一懸念されるのは,顧客の受け入れ体制。圧倒的人員数と自前の局内設備を持つ,NTTのフレッツADSLでさえ,申し込みから利用可能になるまで1カ月から2カ月程度かかる。新規参入するソフトバンクの体制を考慮すると,6月20日から7月末までの1カ月強で,20万人が利用可能な状態になっているとは,考えにくい。「20万人いかなくても,この世の終わりではない。NTTとの書類のやり取りが上手くいけば,申し込みから1週間程度で利用可能になるはずだが,手続き上のゴタゴタはあるかもしれない。だから事前に許してくださいという意味で,最初は無料にした」とは,孫社長の弁だ。

井上 理=日経コンピュータ




◎IT Pro注)
NTTが1998年に実施したADSLフィールド実験で得られた伝送速度と加入者線の線路長との関係(1998年12月17日にNTTが公開した資料より)
 ADSLで得られる速度は,電話局からの距離や回線の状態に依存する。グラフは,旧BizITの「ADSLサイト」に掲載したもの(記事へ,内容としては隔世の感ですが...)。メタル回線の長さと速度の関係を調べた結果である。ADSLの方式はG.dmt Annex A相当であり,今回ソフトバンクが採用を決めた方式と同じである。回線の条件にもよるが,概ね2km以内であれば,アクセス部分では4Mビット/秒以上が期待できそうだと読める。ただし,近くにISDN回線がある場合には,日本仕様のAnnex Cよりも干渉に弱いため,速度はさらに低下する可能性がある。もちろん,トータルのスループットは,中継回線の容量などにも左右される。参考までに掲載する。