ダウム・コミュニケーションズの李社長兼CEO 韓国のインターネット企業最大手,ダウム・コミュニケーションズの李在雄社長兼CEO(最高経営責任者)が日経コンピュータ記者と会見,「最近,韓日のIT(情報技術)関連企業の交流が活発になっている。教科書問題は残念なことだが,民間企業のビジネス面の交流が両国の間にある溝や歴史認識の差を埋める契機になるだろう」と語った(写真)。

 ダウムは,韓国で無料メールやコミュニティ,映画や旅行のコンテンツといったサービスを提供するポータル・サイトを運営している。1日のページビューはすでに2億件を越えており,ヤフージャパンを抜いてアジア最大の規模を誇る。“韓国の孫正義”とも言われる李社長は,世界経済フォーラムが選定する「世界の未来指導者100人」に選ばれている。李社長は今年1月のダボス会議にも出席した。

 ダウムは日本企業との交流に積極的で,昨年は日本のベンチャー企業であるガイアックス(東京都渋谷区)と合弁で日本法人ダウムジャパン(http://www.uin.ne.jp/)を設立した。この日本法人は,インスタント・メッセンジャー(IM)のOEM提供を始めている。今年に入って,NTT-Xが運営するポータル・サイト「goo」や,日本テレコムが運営するプロバイダ・サービス「ODN」などが,相次いでダウムのIMを採用している。

 教科書問題とは,日本の文部科学省が検定中の歴史教科書に,韓国や中国への植民地支配を正当化する記述があると指摘されていることを指す。3月1日には,韓国の金大中大統領が第82周年独立記念式典で,間接的に遺憾の意を表明した。現在,韓国の大手新聞社は社説を通じて,「日本の歪曲教科書に対し国民的対応を」(朝鮮日報),「韓中連帯で歴史歪曲を正そう」(中央日報)と呼びかけている。

 李社長は,「これまで韓日両国の政治やビジネスにおいて,協力関係がそれほど深くなかったため,相互の認識や理解に溝が生じていた。我々民間企業がビジネス面の交流をもっと進めるよう努力すべきだ」と続けた。

 同様の指摘は,韓国最大の懸賞サイトを運営し,電子ブック事業も手掛ける,イエイン・インフォメーションの趙基元社長もしている。さらに趙社長は,「たとえ今後,両国政府間で教科書問題がさらにこじれようとも,ビジネスの場では影響はまったく出ないだろう」と日経コンピュータ記者に語った。イエインは今夏に日本で事業を開始することを目標に,日本企業との提携交渉を進めているところだ。
 
 教科書問題は政府の話し合いを待っていても解決しそうにない。日本政府は,韓国政府の内容の是正を求める要請に対して,「教科書検定には関与しない」態度を示しているからだ。李社長や趙社長が指摘するように,今もっとも交流が盛んなIT関連分野で,両国のコラボレーションをさらに進めることが,両国の間にある溝を埋める早道なのかもしれない。

井上 理=日経コンピュータ

日経コンピュータ4月9日号で,韓国のIT事情に関する特集記事の掲載を予定しています。ご期待ください。