米クレイとの提携を発表するNECの小林執行役員 NECと米クレイ(http://www.cray.com/)は2月28日(日本時間),スーパーコンピュータ(スパコン)分野で提携した。提携の骨子は,NECがベクトル型スパコン「SX-5」をクレイにOEM供給すると共に,北米における独占販売権をクレイに与えること。換わりにクレイは,同社のダンピング提訴がきっかけとなって日本製スパコンに課せられるようになった高額関税の撤回を米国政府に申請する。この申請は今後1~2カ月以内に認められ,1996年以来続いていた日米スパコン戦争が完全に集結する見通し。米政府が関税撤回を認めない場合は提携自体が白紙になるが,「その可能性は極めて低い」とNECの小林一彦執行役員常務は見ている。

 今回の提携によって,NECのスパコンは北米市場に再上陸を果たすことになった。「クレイへのOEM供給によって,NECのスパコン事業を1.5倍の規模に拡大する」と小林執行役員常務は意気込む。ベクトル型のスパコンは,「大規模シミュレーション用として,自動車メーカーや研究機関に根強い需要があるため,今後5年程度は,安定した伸びを示す」(同)と予想する。

 米国唯一のスパコン・メーカーであるクレイ(当時の社名はクレイ・リサーチ)は1996年7月,「日本製スパコンが不当な廉価販売によって,米国市場を侵害している」として,米商務省にダンピング提訴をした。その直前に,米国立大気象センターがNEC製スパコンの購入をほぼ内定したことがきっかけだった。クレイの提訴を認めた米商務省は1997年10月,ダンピングの事実を認定し,NEC製品に454%,富士通製品に173%,その他の国産製品に314%という,高額の関税を課した。これにより,日本メーカーは,米国市場から事実上撤退を余儀なくされていた。

 今回のNECとクレイの提携は,複数の米国ユーザーの強い要望がきっかけとなって交渉が始まった,という。1996年6月のダンピング提訴後,クレイは米SGIに買収されるなどの曲折を経て,2000年4月から独立会社に戻った。その間,ベクトル型スパコンの製品強化に熱心でなかったため,現在では,NECなどの日本製品に性能面で大きく遅れをとっている。そこで高性能ベクトル型スパコンを望む米国ユーザーが,NECとクレイの和解を望んだようだ。

 クレイは,NECのベクトル型スパコン「SX-5」を北米以外の地域でも販売する権利を持つ。SX-5の後継機の販売にも協力する。一方,NECはクレイの無議決権優先株式2500万ドル(7%分)を取得した。

星野 友彦=日経コンピュータ

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