日本アイ・ビー・エムは1月23日 高齢者や障害者が簡単にパソコンやインターネットを利用できるようにするための取り組み「ITry Project(アイトライ・プロジェクト)」を発表した。画面に表示する文字を拡大したり,マウス操作をシンプルにする仕組みを提供することで,パソコンやインターネットの「アクセシビリティ(Accessibility)」を少しでも向上しようという取り組みだ。アクセシビリティ向上の取り組みは海外では盛んだが,日本で明確に打ち出したのはIBMが初めて。高齢化社会への移行を前に,50歳以上のユーザー層を本格的に掘り起こす狙いもある。

 日本IBMは,ITry Projectにもとづく第1弾の製品として,細かい文字がよく見えないユーザーや,キーボードやマウスの操作が苦手なユーザー向けのユーティリティ・ソフト「ITry Kit」を提供する。2月1日に発売する家庭向けデスクトップ・パソコン「Aptiva Eシリーズ」の新機種「7EJファミリー」5モデルに標準で添付する。「今後はすべてのパソコン製品に適用していきたい」(堀田一芙常務)という。

 ITry Kitは,Windows ME用のユーティリティ・ソフトで,画面に表示されるアイコンや文字を大きくする,シングル・クリックでアプリケーションを起動できるようにする,キーボードの入力待ち時間を長くするなど,画面デザインを中心に23個のユーザー設定項目を高齢者向けに調整する機能を持つ。ユーザーは,ITry Kitのアイコンを一回クリックし,同ソフトを起動するだけで,これらの23種類の設定を一度に高齢者向けに変更できる。例えば,アイコンやメニューの文字は通常は9ポイントだが,ITry Kitを使って「大画面」を指定すると16ポイント,「特大画面」を指定すると17ポイントに変更される。

 ITry Kitは,現行のAptiva Eシリーズとノート・パソコン「ThinkPad iシリーズ1800」でも利用できる。希望するユーザーには1000円(送料と手数料)で収録CD-ROMと説明書を送付する。2月末からは,ITry ProjectのWebページからも,無料でダウンロードできるようにする。

 このほかIBMは,ITry Projectの一貫として,Webコンテンツを高齢者向けに変換する技術「WEBトランスコーディング」の開発を進めている。WEBトランスレータを使うと,ユーザーは自分の視力に合った文字の大きさや文字・背景色を事前に選択し,Webサーバーに登録できる。Webサーバーはユーザーの登録情報をもとに,コンテンツの内容を変換して,それぞれのユーザー向けに送信する。単純に文字を大きくすると,画面のレイアウトが崩れてしまうので,内容が見やすくなるように画面を動的に再構成する。

 IBMは検索サービス大手のライコスジャパンと共同で,3月1日から3カ月間程度,WEBトランスコーディング技術の実験運用を始める。そのためにライコスは,高齢者向けサイト「LYCOSシニア」を1月23日付で開設した。

中村 正弘=日経コンピュータ