政府・通産省は,商標に絡むドメイン名を保護する法案を,来年1月に召集される次期通常国会に提出する。提出は,法案提出期限ぎりぎりの3月中旬ごろになる予定。法案が成立すれば,第三者に自社名称などに関連するドメイン名を不正に取得・使用された場合,商標や商号を持つ企業はドメイン名の使用差し止めや損害賠償を請求できるようになる。ただし,この法案にはドメイン名の「移転」に関する規定は盛り込まれない予定であるため,インターネット関係者からは「意味がない」という批判の声が挙がっている。

 通産省は,不正競争防止法を改正し,不正なドメイン名の使用差し止めに関する規定と賠償規定を法案に盛り込む考えだ。商標や商号などの権利を公使できる範囲をドメイン名まで拡げる形で,企業などがドメイン名を保護できるようにする。

 法案が可決されれば,転売目的などでドメイン名を不正に取得・使用する“サイバー・スクワッティング”行為に,一定の歯止めがかけられる。ただし,法案の既定では,第三者に取得されたドメイン名の使用を差し止めることはできても,そのドメイン名を自分のものにすることはできない。ジャックスが日本海パクトを相手取り,「jaccs.co.jp」の使用の差し止めを請求していた訴訟で12月6日,ジャックス勝訴の判決が出たが,ジャックスは「jaccs.co.jp」を取得できなかった。

 このため,インターネット関係者の間からは,「移転についても法律に明記してもらわないと,裁判を起こしても意味がない」といった意見が相次いでいる。今年10月に,「JPドメイン名紛争処理方針」を施行したJPNICも,「移転」を法案に盛り込むよう,通産省に要求しているようだ。JPドメイン名紛争処理方針は,ドメイン紛争に関する民間ルールで,第三者にドメイン名を悪用された場合,紛争処理機関に移転を申し立てできる。インターネット業界では,このルールを裏付ける法律的な根拠を求める声が強まっていただけに,今後,通産省も法案内容を見直す必要がありそうだ。

 この点について,通産省は,「ドメイン名の移転に関する規定を盛り込めるように努力はするが,そうした場合不正競争防止法や商標法の内容との兼ね合いが非常に難しくなる」と説明している。その理由として「権利を侵された物や事象を,取り上げたり,辞めさせることはできても,それを自分のものにする規定が,現行法にはいっさいない」ことを挙げる

井上 理=日経コンピュータ