いよいよ来年2月22日に迫った,日本語による登録も可能な新JPドメイン「汎用JPドメイン名」の登録開始だが,その具体的な登録方法が明らかになるにつれて,ドメイン名の登録代行業務などを営むJPNIC会員の間から「JPNICの稚拙なやり方では,大混乱をきたすことは必至」と怒りの声が噴出している。

■優先登録にはパスワードが必要
 JPドメインの管理組織である日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)は,12月13日に開催した第3回会員説明会の中で,「優先的に汎用JPドメイン名を登録できる既存のドメイン名登録者に対して,登録用のパスワードを郵送する」ことを改めて説明した。具体的には「2000年3月31日までに既存ドメイン名の登録をしていて,2000年12月1日の時点で登録を維持している登録者」に対して,既存ドメインと同じ文字列の汎用JPドメインを登録する優先権を与え,優先登録作業に必要なパスワードは郵送で通知する。

 このパスワードを使って,来年2月22日以降に,JPNICの専用Webページにアクセスすれば,保有する既存ドメインと関連する汎用JPドメインを優先的に登録申請できる。JPNICによると,今回パスワードが郵送され優先権が付与される予定の登録者は,およそ15万人。2月10日前後に15万通の封書が発送され,これを受け取れない登録者は「優先権がない」とみなされる。JPNICは登録用パスワードを既存のドメイン名の登録情報に書かれた住所宛てに郵送する。

■住所変更で,優先権失効の恐れも
 問題は,第3回会員説明会の中で,JPNICが唐突に公表した「住所変更の受け付けは年内いっぱいで締め切る」という方針にある。つまり登録後に住所変更などがあって,JPNICの登録データベースの内容と現況が異なっている登録者は,年内に手続きをしないと,優先権を確保できなくなる恐れがある。仮に「nikkeicomputer.co.jp」と正規に保有していても,住所変更を怠っていたため,パスワードを受け取れなければ,「nikkeicomputer.jp」を優先的に取得する権利を放棄したとみなされてしまう。

 今回の場合,住所変更の届は,JPNICの年内最終営業日にあたる「12月28日必着」が優先権を確保する条件となる。つまり,この事実を知らずに,手続きを怠っていた場合,残された時間は10日程度しかない。

 今回のJPNICの方針に対して会員企業から,「年末までに住所変更できなかったら優先登録の権利放棄となるのは無茶苦茶」,「郵送によるパスワード送付や年内期限を知らないドメイン登録者はたくさんいるはず。今のままだと,住所間違いなどで本来受けられる権利を行使できないユーザーが多数生まれる」などと,その後の大混乱を懸念する声が多数あがっている。

■JPNICの広報努力不足を指摘する声
 JPNICが,今回のタイトなスケジュールを,「一般のドメイン登録者に広く伝える努力をあまりしていない」事実が会員の怒りに火を注いでいる。JPNICのWebサイトにも12月16日22時現在,「住所変更の書類は年末必着」の事実は記載されていない。

 あるJPNIC会員企業は,「もし当社を通してドメイン登録をしたお客様の住所が間違っていて優先権を与えられなかったら,当社がお客様から損害賠償を請求されかねない」と懸念する。そこでこの企業は12月13日の夜から,自社を通じてドメイン名の登録をしたユーザーに対し,住所確認を促す作業を自主的に始めた。「現在,一般のユーザーは,登録者の住所情報が記載されているJPNICの『WHOISデータベース』を参照できないが,当社はJPNIC会員向けのWHOISで住所を参照できる。こちらで現在の登録住所を検索して,メールに貼り付け,確認を促す内容のメールを送る」。

 この企業によれば,こうした作業を自動化するシステムを作るだけでも2~3日はかかり,費用の面でも,人手の面でも,大変な負荷がかかる,という。「数万規模のドメイン登録者を抱える大手のなかには,こうした支出を嫌って,会員への通知努力を放棄するところも多いのではないか」と打ち明ける。

 JPNICは,「平素からドメイン名の登録者情報を正しく更新して下さい,と訴えてきた」としており,事実,メーリング・リストなどと通じて,周知徹底の努力をしてきた。郵送によるパスワード送付の方法についても,「11月27日の会員向け説明会で説明している」とする。

 一方で,JPNICは,「住所変更の書類は年末必着」という事実に関しては,「一般の方向けに直接伝えるという点では努力が不十分」と認める。ドメイン名を巡る訴訟や売買に関するニュースが,一般メディアに広く取り上げられる昨今,情報不足で住所変更を年内までに済まさずに不利益を被るユーザーが出かねない状況は,救済措置を用意しているとしても,JPNICにとって好ましくないはずだ。

 法人化を巡る一連の騒動のなかで,JPNICは会員に対して,「汎用JPドメイン名の実施内容を新聞広告などを利用して,広く一般に伝える」と約束していた。だが,今回のケースに関しては,今のところ,新聞広告などを掲載する実施日などは,未定という。

 この記事を読んで心配になったユーザーは,JPNICの「ドメイン情報記載事項変更受付窓口」に確実な登録者情報を記入し,必要ならば,12月28日までに手続きを終える努力をしてほしい。登録情報の変更に関する手続きは,JPNICのWebページに記載されている。

井上 理=日経コンピュータ