クレジットカード大手のジャックスが,有限会社日本海パクト(富山県富山市)に対して,「jaccs.co.jp」というドメイン名の使用停止などを求めていた訴訟で,富山地方裁判所は12月6日,ジャックス勝訴の判決を下した。徳永幸蔵裁判長は判決で,「被告の日本海パクトは,そのホームページによる営業活動に『JACCS』の表示を使用してはならず,また登録ドメイン名『http://www.jaccs.co.jp』も使用してはならない」などと,ジャックスの訴えを全面的に認めた。ドメイン名に関する国内の訴訟で判決が出るのは,今回が初めて。このため,国内のインターネット関係者や法曹関係者から,富山地裁の判断に注目が集まっていた。

 今回の判決について,インターネットに関する法律問題に詳しい森綜合法律事務所の横山経道弁護士は,「商標に絡むドメイン名の使用が,不正競争防止法の違反に該当するかの日本で初めての判断。インターネット業界のみならず,法曹界においてもかなり意義深いこと」と評価する。ただし,今回の判決はあくまでも「ドメイン名の使用停止」を命ずるもので,ジャックスカードは「移転」を勝ち取ったわけではない。「現行の法律では,ドメイン名の移転を根拠づけるものはどこにもない」(横山弁護士)からだ。

 それでも,今回の判決が,国内でドメイン名においても企業の商標権利が保護する動きを加速することは間違いない。最近では,大部分の企業名にあたる「日本語.COM」が,転売などを目的とする第三者,いわゆるサイバースクワッター(不法占拠者)によって取得されたことが大きな問題となっていた。

 被告である日本海パクトは1998年5月に「jaccs.co.jp」を取得。同年9月ごろに,Webサイトを開設し,「ようこそJACCSのホームページへ」というタイトルの下に,同社が扱う簡易組み立てトイレや携帯電話などを販売するページへのリンクを表示していた。その後,同社はWebサイトの内容を数回にわたって書き換え,現在では,「Web専門店街ひよこタウン」というタイトルのもと,「denryoku.co.jp」や「suisyomai.co.jp」,「pearlrice.co.jp」など13個のJPドメイン名へのリンクを張っている。

 原告であるジャックスは,商標登録済みの自社の英語表記名を用いた「jaccs.co.jp」が,日本海パクトによって不正に使用されていると判断。1998年11月に訴訟に踏み切った。原告であるジャックスの主張は,「商標である『JACCS』はジャックスの営業表示として全国的に周知かつ著名となっている。被告は,その文字列が使用されたドメイン名を法外な値段で譲渡または賃貸する目的で取得し,そのドメイン名を使用したWebサイト上で被告が販売する商品などの宣伝をしている。被告のこれらの行為は,不正競争防止法の不正競争行為に該当し,原告は営業上の利益を侵害される恐れがあるため,『http://www.jaccs.co.jp』の使用の差し止めを求める」というものだ。また,被告である日本海パクトが,この訴訟が提起される前に当該Webサイト上で「JACCS」という表示を使用していたことから,ジャックスは「被告が今後も使用する可能性がある」と判断し,表示の使用差し止めも求めていた。

 今回の訴訟で主に争点となったのは,「jaccs.co.jp」というドメイン名の使用が不正競争防止法二条一項一号および二号の「商品等表示の使用」に当たるか否かということ。富山地裁は,「ドメイン名は自己の名称等を示す文字列などを登録している場合が多く,インターネットの利用者にとってもドメイン名が特定の固有名詞と同一の文字列である場合などには,その固有名詞の主体がドメイン名の登録者と考えるのが一般。『jaccs.co.jp』は,そのWebサイト上の表示内容の出所を識別する機能を有しており,商品等表示の使用と認めるのが相当である」と結論づけた。

井上 理=日経コンピュータ


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