AS/400の生みの親,ソルティス博士 「Windows2000のPOWERプロセサへの移植をできるだけ早く実現したい,と個人的には考えている」。AS/400の"生みの親”として知られる,米IBMのフランク・ソルティス博士が,日経コンピュータに対して,AS/400(現・eServer iSeries)とRS/6000(同pSeries)が搭載するPOWERプロセサへのWindows2000移植計画の現状を明かした。

インテル版では不可能なスケーラビリティを実現
 ソルティス博士は「米マイクロソフトとIBMは,2年ほど前から,Windows2000をPOWERプロセサに移植するための話し合いを始めた。マイクロソフトがIBMに持ちかけたものだ」と,これまでの状況を説明する。だが,移植のための交渉は,マイクロソフトと司法省の独占禁止法紛争の影響で,現在は中断している。しかしソルティス博士は「独禁法問題が解決したら,すぐに交渉を再開し,その後1年以内に移植を終わらせたい」とPOWER版Windowsの実現に並々ならぬ意欲を見せる。

 現在,ソルティス博士は,米IBMでAS/400担当のチーフ・サイエンティストの役職にあり,「私の考えを,IBMの経営陣が採用するかどうかは,まったくわからない」と,再三念を押す。それでもソルティス博士は,技術的な見地から,POWER版Windows2000の実現にこだわる。「Windows2000がPOWERプロセサの上で動けば,インテル・プロセサ版では不可能なスケーラビリティを実現できる。これはお客様に,大きなメリットをもたらす」と考えているからだ。「主記憶に対するデータ転送能力の制約から,インテル・プロセサによる大規模マルチプロセサ機は現実的な選択肢とはいえない。インテルの64ビット・プロセサItaniumが登場しても,こうした状況に大きな変化はない。これに対してPOWERプロセサは,現行の機種でも64プロセサ構成が余裕を持って実現できるように設計してある」と主張する。

Crusoe方式は,性能の確保が難しい
 このほかソルティス博士は,「米トランスメタのインテル互換プロセサCrusoeは,所定の性能を発揮するためにかなり苦労するのではないかと思う」という見解を示した。ソフトウエア資産の互換性を完全に維持したまま,AS/400のプロセサを独自CISCプロセサから,RISCプロセサ(POWER)に切り替えることに成功したソルティス博士の発言だけに興味深い。現在のAS/400では,既存のCISCプロセサ用のプログラムを,POWERプロセサ用の命令に変換して実行する。この点は,インテル・プロセサ用のプログラムを,独自命令に変換してから実行するCrusoeとまったく同じだ。

 ソルティス博士は,「私はトランスメタのデイブ・ディッエルCEOと同じ大学の研究室に所属したこともあり,AS/400のプロセサ切り替えに際して,Crusoeと同じジャスト・イン・タイム・コンパイラ方式(実行時に命令を逐次変換する方式)を検討してみた」と打ち明ける。しかし「性能面の課題を克服できそうもなかったため,AS/400ではプリ・コンパイル方式(実行前に,命令を一括変換する方式)を採用するに至った」と言う。

星野 友彦=日経コンピュータ