日立ソフトウェアエンジニアリングは11月13日,マイクロソフト日本法人と共同で,あたかも一つの会社のように連携して活動する組織「バーチャルカンパニー」を設立すると発表した。これに先立つ11月9日に,日立ソフトの親会社である日立製作所は,米マイクロソフトと合弁会社「ネクスタイド(仮称)」を12月4日付で設立すると発表。バーチャルカンパニーもネクスタイドも事業内容はまったくといっていいほど同じである。親子でマイクロソフトとの関係強化を競り合うという珍しい構図となった。

 バーチャルカンパニーとネクスタイドを比較してみよう。バーチャンルカンパニーは日立ソフトとマイクロソフトがそれぞれ1億2000万円ずつバーチャルカンパニーに“出資”する。この2億4000万円を元手に,電子商取引システムのコンサルティングから開発までを,一気通貫で実施する体制を整備する。売上高は初年度100億円を目指す。

 日立ソフトとマイクロソフトの役割分担は明確である。バーチャルカンパニーで営業を担当するのはマイクロソフト。マイクロソフトが開発案件を獲得した後,「当社製品について高い技術力を備えた日立ソフトに開発を委託する」(マイクロソフトの阿多親市社長)。日立ソフトは,約400人の専任SEをバーチャルカンパニーに送り込む。「プロジェクト・マネジャやマイクロソフト製品のスキルを備えたSEで固める」(日立ソフトの兼清裕幸社長)。

 一方,ネクスタイドの資本金は15億円と大型で,出資比率は日立が65%,マイクロソフトが35%。3年後に売上高 200億円を目指す。従業員は約50人で始め,来春には200人超とし,将来的には1000人規模に拡大する。

 バーチャルカンパニーとネクスタイドを比較すると,明らかに日立ソフトの事業計画のほうが具体的である。いきなり400人を投入し,初年度100億円を売り上げるというから気合いが入っている。これに対し,親会社の日立は先々の数字こそ大きいものの,この手の会社の生命線であるSEがまったく不足している。

 記者会見でネクスタイドとの関係を聞かれた,日立ソフトとマイクロソフト首脳は,「まったく関係ない」と即答した。日立ソフトの兼清社長は,リアルな会社を新設するのではなく,バーチャル・カンパニーという形態を取ることにした点について,「すぐさまビジネスを開始し,状況に応じて柔軟に人員配置するなど運用がしやすい」と回答。深読みすれば,合弁会社という形にこだわった親会社への痛烈な皮肉ととれる。

 そもそもマイクロソフトとの共同事業では,日立ソフトのほうが日立より歴史が長い。日立ソフトは1997年2月から,マイクロソフトのバックオフィス製品を検証するコンピテンシー・センター(BOCC)を日本で初めて開設するなど,互いに協力して事業を進めてきた。マイクロソフトの阿多社長も,「日立ソフトとバーチャルカンパニーを作ることにしたのは,長い間にわたって,深いつきあいがあったため」とコメントした。

 一方,日立製作所は6月15日に,マイクロソフトと合弁会社を作る方針を発表した。これが具体化したのが,ネクスタイドである。ところが,子会社なんぞに断る必要がないと考えたのか,「日立製作所は日立ソフトに一言の相談もせず,マイクロソフトとの合弁会社設立を発表した」(日立関係者)。親会社の発表を聞いた日立ソフトは,親会社が日立ソフトとまったく同じ事業を展開するという発表に驚いた。今回のバーチャルカンパニーの設立は,日立ソフトが親会社に叩きつけた挑戦状と言えそうだ。
谷島 宣之,戸川 尚樹=日経コンピュータ

(IT Pro注:
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