政府が主催する「IT(情報技術)戦略会議」が11月6日,会議の成果物となる「基本戦略」の草案を明らかにした。「超高速ネットワークインフラ整備及び競争政策」,「電子商取引(EC)ルールと新たな環境整備」,「電子政府の実現」,「人材育成強化」を,四つの重点政策分野と位置付け,それぞれについて具体的な目標を示している。基本戦略全体の目標は,5年以内に世界最先端のIT国家となることである。

 第1の重点分野である超高速ネットワークインフラ整備及び競争政策における草案の目玉は,5年以内に30M~100Mビット/秒の伝送速度を持つ超高速インターネット網を整備し,すべての国民が低料金で利用できるようにすることだ。

 IT戦略会議は,日本が今後目指すべき社会を,「すべての国民がITリテラシーを備え,地理的,身体的,経済的制約にとらわれず,ゆとりと豊かさを実感できる国民生活を送ることができる社会」と定義している。高速で低コストのインターネット網の整備は,この社会を実現するためのインフラと位置付けられている。これに先立つ短期的な目標として,すべての国民が1年以内に低料金でインターネットに常時接続できるようにすることも挙げた。

 2番目の電子商取引ルールと新たな環境整備により,「2003年の電子商取引の市場規模は1998年の約10倍になる」という予測を大幅に上回ることを目指す。この目標の土台となる予測は,1998年には7兆円規模だった企業間電子商取引が2003年には70兆円に,企業・消費者間取引は1998年の50倍にあたる3兆円に拡大するというものだ。

 取引量のさらなる拡大を実現するために,2001年の通常国会において,電子商取引の契約成立時期の明確化,ISP(インターネット・サービス・プロバイダ)の責任の明確化,電子商取引に対する消費者の信頼を確立するための個人情報保護基本法の成立を図るべきとしている。

 また,2002年までに達成すべき中期的施策として,コンピュータを利用した犯罪に対応するための刑事法制の見直し,コンテンツ取引の適正化を目的とした契約習慣や流通慣行の是正,コンテンツ制作者の正当な報酬を確保するためのルールの整備を挙げた。

 第3の重点分野である電子政府は,行政手続きのオンライン化を柱とする実現計画を策定すべきだとした。計画の策定にあたっては,「明確な目標設定とその進捗状況に対する評価の公表」,「行政制度の改革」,「民間へのアウトソーシング」を3原則とする。小渕恵三前首相が力を注いだ電子政府構想を,IT戦略会議とししても強力に後押しする考えを示した。

 第4の重点分野である人材育成の強化では,2000年版の通信白書が出した「2005年のインターネット個人普及率60%」との予測を大きく上回るようにする。さらに,2005年までにIT関連の修士・博士号取得者の数を米国を上回る水準にするほか,2005年までに3万人程度の優秀な外国人情報技術者・研究者を確保するようにする。一般市民に対する情報生涯教育も充実させる,インフラや制度を整備しても,これらを利用する人材の質が低ければを宝の持ち腐れに過ぎないとの考えを示す。(森 永輔=日経コンピュータ編集