ソニーの出井伸之会長兼CEO(最高経営責任者)が10月25日,「マスコミは森喜朗首相や中川秀直官房長官がIT(情報技術)を理解しているとかしていないとか言っているが,日本人同士が足の引っ張り合いをしている時期ではない。全員が危機感を共有しないとダメだ」と苦言を呈した。この発言は,ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)が2年に1回開催するシンポジウム「ソニーCSLオープンハウス」の開会挨拶で飛び出した。

 出井会長の危機感は主に,ネットワーク基盤の貧困さに向けられている。「一口に通信と言っても,放送と電話とインターネットがある。日本は,放送と電話についてはそれなりのインフラを持っているが,インターネットについてはまったく遅れている。低速で,かつ高額のインターネット・インフラしか持たない日本は,グローバルな競争についていけない。全世界にインターネットという隕石が落ちているのに,日本だけ隕石が落ちてこない。このままでは,他国に哺乳類が登場する中で,日本だけが恐竜列島として取り残されかねない」(出井会長兼CEO)。

 こうした状況を打破する施策が高速インターネット網の構築である。「5年をメドに,『米国を追い抜くぞ』という意気込みで取り組まなければならない」(出井会長)。もちろん,高速インターネット網を構築すればそれでよい,というものではない。出井会長は,構築に当たって民間の力を利用することと,競争原理の導入が重要と強調した。「NTTも民間企業の1社として,競争の中で高速インターネット網の構築に取り組むべきだ」(出井会長)。

 出井会長は現在,政府が主催するIT戦略会議の議長を務めている。「IT戦略会議の議長になり,社内外から数多くの批判と励ましをいただくようになった。ところが議長としての私の発言が世の中に誤って伝えられていることが多い。言い訳をするわけではないが,いま考えていることを説明させていただきたい」と前置きし,約30分にわたって持論を展開した。
森 永輔=日経コンピュータ