米RSAセキュリティ(http://www.rsasecurity.com/)の暗号専門家である,バートン・S・カリスキーJr. チーフ・サイエンティストが日経コンピュータと会見し,「だ円暗号方式はモバイル機器間の通信といった新規分野から,徐々に普及する」との見通しを示した。カリスキー氏は,暗号方式のデファクト・スタンダードである「RSA暗号」とワンタイム・パスワード「SecurID」の開発元であるRSAの研究部門「RSAラボラトリーズ(RSAラボ)」を統括する,第一線の研究者である。カリスキー氏と日経コンピュータのやり取りは以下の通り。

日経コンピュータ:次世代を担う暗号技術について,RSAラボはどう取り組んでいるのか。

カリスキー氏:今のところRSA暗号は十分な強度を持っているが,その強度が未来永劫保証されているわけではない。RSA暗号をより強固なものにするため,ここ10年間で手がけた改善点を盛り込む作業をRSAラボは進めている。

 RSA暗号以外の方式についても研究を進めている。特に「だ円曲線暗号」はRSA暗号の代替案として重視している。

日経コンピュータ:だ円曲線暗号はパラメータの設定によっては簡単に解読されてしまうと指摘されている。

カリスキー氏:だ円曲線暗号はRSA暗号よりも新しい方式であるため,絶対的な研究量が少ないことは事実だ。しかし全世界の研究者が,だ円曲線暗号の強化にむけて努力しており,アルゴリズムの強度は徐々に上がってきている。

 だ円曲線暗号の問題は強度よりも,利用可能なソフトがまだ少ないことだろう。米国ではRSA暗号が広く普及しているため,だ円曲線暗号を使おうとしても,肝心の通信相手が使っていない場合が多い。

 このため,だ円曲線暗号はモバイル機器間の通信など,まったく新しい分野から徐々に導入されることになるだろう。実装が簡単という,だ円曲線暗号の特徴も,処理能力が限られるモバイル機器には適用しやすい。ただし既にRSA暗号を使っているパソコンやサーバーと通信する場合もあるため,普及にはしばらく時間がかかるだろう

日経コンピュータ:今後,インターネットを安全な通信手段にしていくためには,暗号の適用範囲をもっと広げていく必要がある。

カリスキー氏:暗号技術の新しい適用範囲を開拓することも,RSAラボの重要な研究テーマだ。現在,インターネット・オークションや電子投票で,入札や投票の秘匿性を保証する研究を進めている。まだ内容を詰める余地があるが,そう遠くないうちに成果が出るだろう。

(聞き手は,高下 義弘=日経コンピュータ