富士通の秋草直之社長と,日本アイ・ビー・エムの大歳卓麻社長が19日,共同記者会見に臨んだ。テーマは,EJB(EnterpriseJavaBeans)仕様に基づいたソフトウエア部品の普及を目指すコンソーシアム(名称は未定)の旗揚げ。両社は長年にわたって激しい競争をしてきており,両社のトップが一緒に会見したのはおそらく初めてである。

 富士通の秋草社長は,「日本IBMと当社がこういう場でご一緒するのは,長い歴史の中でこれが初めてだと思う。IT業界はドッグイヤーと言われるが,ソフト開発は未だに家内工業。日本IBMなどと手を組んでコンソーシアムを作り,EJB部品の流通を実現し,この状況を変えたい」と語った。

 日本IBMの大歳社長も,「各分野のトップ企業と一緒に意味のある発表ができたことを喜んでいる。私も秋草社長と同じ認識だ。日本のIT業界が抱えるソフト生産性の課題は大きい。これを改善できればIT業界のみならず,日本全体の競争力にもつながる」と述べ,両社でエールを交換した。

 コンソーシアムの名称はまだ決まっていない。計画では10月6日に設立総会を開いた後,12月までにEJB仕様に準拠した,可搬性のあるソフト部品の仕様を策定・公開する。「複数のWebアプリケーション・サーバー上で稼働するソフト部品を作るための“べからず集”のような開発ノウハウ集をまとめあげ,その情報を公開する」(富士通の藪田和夫システムサポート本部システム技術統括部担当部長)。

 続いて2001年4月をメドに,部品の再利用性を高め,流通を促進するための「品質公開情報規約」を策定・公開する。これはソフト部品の機能説明や品質など,あるエンジニアが他のエンジニアが作った部品を利用するのに不可欠な情報のフォーマットや表記法を定めたもの。その後,ソフト・ベンダーなどに働きかけて,ソフト部品を流通・普及させるための取り組みを実施するという。

 コンソーシアムの発起人は,富士通,日本IBMのほかに,日立ソフトウェアエンジニアリング,イーシー・ワン,NTTコミュニケーションウェア,川鉄情報システムの合計6社。いずれもJavaを使ったシステム開発では日本でもトップクラスの実績を持つ。まずは30社~50社程度の会員企業を募る計画だ。

 実際,このタイミングで各社がコンソーシアムを設立する意義は大きい。「ネット時代を迎えて,ユーザー企業は高品質かつ短納期を強く求めている」(コンソーシアムの会長に就任予定の松尾勇二エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションウェア社長)。これに応えるには,ソフトの部品化と再利用が不可欠で,そのための最有力の手段がEJB仕様であることは議論の余地がない。

 一方,EJB仕様を実装したWebアプリケーション・サーバー(富士通のINTERSTAGEや日本IBMのWebSphereなど)の本格普及はこれからだ。なにもせずにいれば,特定ベンダーのWebアプリケーション・サーバー上でしか動かないソフト部品が増えてしまうところだった。コンソーシアムの取り組みがうまくいけばこの問題を未然に回避でき,再利用可能なソフト部品が広く流通する可能性がある。

 NTTコムウェアの松尾社長は会見の席上,「富士通と日本IBMはすでにソフト部品の動作確認をするためのシステムを作っていると聞いている。それだけ(今回の取り組みは)本物だと思って(発起人に)加わることにした」と語った。

 ただし,今回の発表内容を見た限り,本当に実現できるのかどうか疑問も残る。その一つが,今回の発表が仕様や規約を作るというアナウンスに留まったこと。部品の開発者にどうやって規約を守らせるのか,誰が規約が守られているかを検証するのか,いつどんな形で規約に沿った部品の提供を始めるのか,といったことの説明はなかった。

 発起人企業の1社である日立ソフトの中村輝雄インターネットビジネス推進部グループリーダは,「部品の提供方法や価格まで定めることはせず,各ベンダーに任せることになるだろう」としている。仮にそうなった場合,規約に沿っているかどうかがうやむやになり,そのうち規約自体が無意味になるのは過去の様々な取り組みが証明している。規約を強制したからといってうまくいくとは限らないが,少なくとも規約が守られているかどうかをチェックする仕組みは必要だろう。

 ともすれば,「船頭多くして・・・」になりがちな,コンソーシアムという組織体制も気になる点だ。仕様や規約策定に当たって参加各社の利害が衝突するような状況になると,議論百出で時間ばかりかかる状況になりかねない。コンソーシアムからもう一歩踏み込んで,オブジェクト指向技術に関する米国の標準化団体「OMG」や電子商取引関連の「CommerceNet」のような,「個別の企業とは一線を画した非営利組織」にする必要があるのではないか。(戸川 尚樹=日経コンピュータ

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