2003年12月15日の朝、福岡市内の道路で大渋滞が起こった。渋滞の原因は福岡県警の交通管制システムに障害が発生したこと。この障害により、市内各地にある信号機のうち128台が正常に点灯しなくなった。復旧はスムーズに行われたものの、障害発生と通勤の時間が重なったことで渋滞の解消までに時間がかかった。

 仕事納めが近づく2003年12月15日月曜の朝、渋滞がひど過ぎると感じた福岡市内を走るドライバーたちが警察や地元のマスコミに問い合わせを始めた。その時点で、福岡県警察本部はこの問題を正確に把握していた。県警にある交通管制システムの障害が大渋滞の原因だったからだ。市内にある信号機の一部が正常に動作しなくなったのである。福岡県警察本部交通部交通規制課管理官次席事務取扱の山下茂警視は、「県警への苦情は10件程度あった」という。

 具体的な障害個所は、管制システムが個々の信号機と通信するために使う「信号制御下位装置」。数十台あるうちの1台が故障し、通信できなくなった。信号機は通常、車の流れがよくなるように近隣の信号機が連動して切り替わる。“車の通行が多い道路の場合、時速40kmで走行すれば進行方向の信号が順々に青になっていく”といった具合である。

 管制システムは市内にある信号機が切り替わるタイミングを一元的に制御している。このタイミングを個々の信号機に送信するのが信号制御下位装置である。信号制御下位装置の1台が故障したことにより、その装置に接続している128台の信号機を制御できなくなった。128台の信号機は他の信号機と連動せず、個々がバラバラに青から黄、赤と切り替わる状態になった。

 これまでも、配線の切断などが原因で信号機単体が故障するというトラブルはあった。だが、「今回のように多数の信号機に影響があったトラブルは今まで聞いたことがない」と山下警視は語る。

 福岡県警の交通管制センターがシステムの異常に気付いたのは午前7時30分。交通管制センターの担当者が管理画面にアラートが出ているのを発見した。マニュアルにのっとり午前7時40分には交通管制システムを運用しているベンダーに連絡。連絡を受けたベンダーはすぐに来署し復旧に当たった。復旧作業自体は迅速に進められ、午前8時10分にはトラブルの原因となった信号制御下位装置の故障した基板を交換して復旧を完了した。

 システム自体は復旧したものの、いったん発生してしまった混乱が収拾するまでには、それから約2時間半を要した。通常、福岡市内の渋滞が解消するのは午前9時30ごろだが、この日は10時30分ごろまで解消しなかった。

障害を起こした信号機が市内に点在

 福岡市内には信号機が約2500台設置してある。トラブルが発生したのはそのうちの128台。ただ、連動しないだけで個々の信号機は切り替わる。にもかかわらずこれほど影響が大きくなったのには、理由がある。

 一つは、トラブルを起こした128台の信号機が、市内のさまざまな道路に点在していたこと。あらゆる道路で渋滞が発生し、それが重なり合って大渋滞になってしまった。県警は道路整備などで信号機を新しく設置するごとに、空いている通信制御下位装置に接続する。その結果、一つの信号制御下位装置にさまざまな地域の信号機が収容されていた。

 大渋滞になったもう一つの原因は、障害の発生が年末の通勤時間という交通量が非常に多いタイミングだったこと。特に渋滞がひどかったのは、通勤に車を使う住民が多い早良(さわら)区、城南区、西区、南区の一部など福岡市の西南部地域だった。「この地域には人口が多く、福岡市約130万人の市民のうち60%程度が住んでいる。地下鉄の駅やバス停などの公共交通機関が利用しづらい場所が多く、通勤に自動車を使う住民が多い」(山下警視)。

 システムは復旧したものの、「二度と同じ故障が起きないよう、ベンダーに徹底的な調査、分析を依頼している」(山下警視)。詳細な故障原因については2カ月たった今でもつかめていないが、「ハードウエアの障害ということで分析に時間がかかることは覚悟している」と語る。ベンダー名については公表しない方針という。

鈴木 孝知=日経コンピュータ