動かないコンピュータForum


動かないコンピュータ・フォーラム 第34回

運用ミスと動かないコンピュータについて考える

動かないコンピュータ・フォーラム 主宰者
中村 建助=日経コンピュータ編集

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 新システムの開発が減り、運用の重要性が強く指摘されるようになっている。こういう時代には運用の問題によるシステム・トラブルについても考える必要があるのではないだろうか。そこで、今回はシステムの運用と動かないコンピュータの関係について考えてみることにしたい。

 直接のきっかけになった出来事があった。今年7月に、社会保険庁が年金の未払いと払い過ぎの事実があったと発表したことである。この件については、新聞でも報道され本誌も7月28日号の「動かないコンピュータ」でも取り上げた。運用のミスが原因で、10年以上の期間、合計300億円という巨額の年金について未払いを続けていたというのだ。期間も金額もケタ外れである。どうしてこんなことが起きたのか、記者として単純に気になった。

 以下では、運用を巡るシステム・トラブルについて考えてみたい。いつものように皆さんからのご意見をお待ちしています。

10年以上にわたり合計300億円を超すミス

 まず社会保険庁のトラブルについて、少し詳しく説明したい。

 社会保険庁が、10年以上にわたって未払いを続けていたのは、65歳以上の全国民を対象にする「老齢基礎年金」の一部である。年金の未払いは、全国に300カ所ある社会保険庁の出先機関である社会保険事務所の職員による運用のミスが原因だった。

 年金の未払いは、社会保険事務所の職員が、必要な書類を送付しなかったために起きた。そのため書類を基に作業を進める社会保険業務センターが、正しい情報をシステムに反映できず、正確な年金額を算定できなかったのだ。

 未払いの問題は夫が生きている妻の一部に起きた。夫だけでなく妻も老齢基礎年金を受け取る年齢に達したときに、妻が年金を受け取る条件を満たしたことを伝える情報を書き込んだ「年金受給報告書」を社会保険業務センターに送らなければならない。にもかかわらず全国の社会保険事務所で、この作業を怠っていたケースがあったのだという。

 社会保険庁はこういった問題が起きた原因について、「業務取扱要領を徹底できていなかった。提出する書類は振替加算に利用する重要な書類であるという認識を、事務所側に周知できなかった」と説明している。以前から、社会保険庁に対しては、「年金の一部が未払いではないか」という指摘はあったが、個別の申し出についてはその都度対応していた。そのため、構造的な問題があると把握するのが遅れた面もあったのだという。

 にわかに信じがたいことだが、現実にこういったことが存在する。運用手順に大きな問題があったと言わざるを得ないだろう。さらに言えば、外部からの指摘によって社会保険庁がこの問題を知ったのは2001年8月のことである。未払いの規模がどの程度だったかを把握するのに時間がかかったというが、問題の所在を知りながら約2年にわたって事実を公表しなかった。この同庁の対応にも疑問が残る。

バックアップ・データの不在で大トラブルに

 普段は問題がないように見えても、トラブルの芽となったり、トラブルを拡大させてしまう運用も存在する。

 ある中堅企業の場合には、運用を十分考えてなかったために、「動かないコンピュータ」を生んでしまった。事情があるので匿名で記すが、これは数年前に起きた実際の話である。

 この会社はERPパッケージ(統合業務パッケージ)をカスタマイズして基幹システムを構築していた。あるとき、ERPパッケージをバージョン・アップさせることにした。実作業はシステムを導入したベンダーに任せた。

 当然の話だが、この中堅企業はERPパッケージの導入に当たって追加開発を施していた。そこで作業を受託したベンダーは、バージョン・アップがシステムに与える影響を調べるための各種テストを実施することにした。その一項目として、本番データを取り出してテスト環境で動かしてみることにしたのである。本番テストの前段階のテストだったのだろうか。このテストも実施してしかるべきことである。

 トラブルはこのとき起こった。データを抽出するつもりが、なぜか誤った操作を実行して、本番データを消去してしまったのである。しかも、このベンダーはデータの抽出に当たって本番システムのデータのバックアップを取っていなかった。

 運用のミスが関係してくるのはこからだ。このシステムは、ベンダーではなく中堅企業が自分たちが運用していた。運用に際して、定期的なデータのバックアップを取っていなかったのである。バックアップがあれば、そこまで深刻なトラブルにはならなかったのかもしれない。しかし、バックアップ・データを保管していなかったため、データを復旧させるために多大な時間と費用が必要になってしまった。

裏目に出たアウトソーシング

 ここまでは社内での運用に関連したトラブルだが、専門家に運用を任せても問題が起きることがある。運用アウトソーシングが、実態としてはむしろコストの拡大を招いているケースがある。

 ある製造業は、運用コストの削減を目的に遠隔地のデータセンターにハードを設置して遠隔地で運用させることにした。とあるベンダーの勧めである。その際に同じハードを複数の会社で利用することにした。さらに運用コストを下げるために、ソフトも同じ業務パッケージでそろえることを内々に決めていたという。

 コスト削減が見込めそうなこともあり、複数の会社がこのデータセンターの利用を決めた。この方法を実行すれば運用コストの削減が可能になるはずだった。しかし現実は違った。パッケージ・ソフトが簡単に業務に適合するものではなかったからである。このパッケージ・ソフトを導入しようとすると、膨大なカスタマイズ費が必要なことも分かった。

 しかし、この企業はすでにベンダーとの運用契約を済ませていた。結局、ほとんどシステムを動かしていないハードをデータセンターに置いたまま、毎月の利用料を支払い続けている。パッケージ・ソフトの導入が難しかったため、当初はそのデータセンターを利用するはずだった企業も参加を取りやめたという。運用コストの削減は遠い夢となった。

 記者が少し考えただけでも、運用に関するミスや考え方の甘さが原因で発生するトラブルをこれくらいは挙げることができる。運用に対する取り組みを変えることで防げる動かないコンピュータは決して少なくないはずだ。

 さて、ここからが本題です。運用が重要な時代、運用のミスから動かないコンピュータを生まないためにはどのような方針の下で運用に当たるべきでしょうか。また実際にどのような運用を実施すべきでしょうか。皆さんからのご意見をお待ちしています。


今回のテーマへの投稿は8月29日(金曜)午後6時で締め切らせて頂きました。ありがとうございました。みなさまのご意見を基にした総括記事は、9月3日水曜に当サイトで公開する予定です。