NTT
情報流通プラットフォーム研究所
情報セキュリティプロジェクト
セキュリティ社会科学グループ
主任研究員
木下 真吾
一般の消費者にとって,無線ICタグ(RFIDタグ)は,大きな利便性をもたらすとともに,プライバシ侵害の危険性も助長すると言われる。無線ICタグが一般的になった2010年にはどんなことが起こりうるのか。その世界を垣間見てみよう。
クリーニング店のサービスがなぜか良くなった
近所のクリーニング店へ洋服を取りに行った。いつもホチキス留めされている紙のタグを外そうと思い,探したがどこにも見当たらない。まあ付いていないに越したことはない。取り外すのを忘れたまま外出して恥ずかしい思いをすることも,ホチキスで指をけがすることも,タグとホチキスとを分別して捨てる面倒もなくなるからだ。店員さんがタグを外してくれたのだろうか?
数日後,同じ洋服をクリーニング店に出しに行った。洋服を渡したあと,会員カードを出そうとカバンの中を捜していたら「いつもご利用ありがとうございます。木下真吾様ですね」と名前を言われた。まだ数回しか利用してないのに,顔と名前を覚えていてくれて少しだけうれしくなった。
さらに「おそでのボタンが一つなくなっておりますが」と言われた。一昨日の満員電車でなくしたのかなと考えていたら,「ボタンの在庫を確認します」とのこと。店員はパソコンに向かうと数秒もたたないうちに「同じボタンの在庫がございました。取り付けておきますか」と聞いてきた。もちろん取り付けをお願いした。ふと目に入ったパソコンの画面には「XYZ 青山店」と表示されていた。その洋服を購入したショップの名前だったが,それは単なる偶然だろう。
次の日,クリーニング店に洋服を取りに行った。よし今回はよく確認してみよう。本当に店員さんがタグを外してくれているのだろうか。前回は外を眺めていてよく見ていなかったのだ。
店員さんは,いつも通り会員カードをカード・スキャナで読み取った。そのあと,初めて見るハンディ・リーダーのようなものを使ってハンガー・ラックに掛けられている洋服をスキャンしていた。私の洋服のところまで来るとリーダーはピッと音を立てた。店員さんは,そでのボタンが付けられていることを確認したあと,袋に入れてくれた。家で確認したが,前回と同様に紙のタグはどこにも付いてなかった。どうやら店員さんが外したわけではないらしい。
1カ月後から奇妙なことが・・・
それから1カ月後,「××クリーニング 1万人分の顧客情報漏れる」という記事が新聞に載っていた。××クリーニングは,近所のクリーニング店が加盟する大手クリーニング会社だ。個人情報保護法が施行されてから5年になるが,こうした事件は一向に減らない。会員である私のところにも謝罪の手紙と割引券が送られてきただけだった。幸いイタズラ電話もなく,迷惑なダイレクト・メールも増えなかったので安心した。