富士通研究所,富士通フロンテック,富士通は2005年7月13日,カラー表示が可能な電子ペーパーを発表した。電子ペーパーとは,紙のように表示が見やすく,薄く軽く曲げられる反射型のディスプレイのこと。今回発表した試作機は,フィルム基板で3枚の液晶層を挟む構造を採り,厚みが約0.8mm。表示サイズは3.5インチのQVGA(240×320ドット)。輝度やコントラスト比は新聞紙と同程度で,表示の切り替えには2~3秒程度かかる。カラーフィルタは使わず,R(赤),G(緑),B(青)をそれぞれ表示する3枚の層を重ねた。製品化は2006年度中を予定している。試作機は,現在開催中の「富士通フォーラム2005」(開催期間は7月14日,15日)で展示中だ。

 表示材料にはコレステリック液晶を使う。コレステリック液晶は,液晶分子がらせん状にねじれた形と,液晶分子が垂直に立った形の二つの状態で安定する。表示する場合は,液晶分子をらせん状に制御して外光を反射させる。表示しない場合(黒い表示)は液晶分子が垂直に立つように制御し,外光を透過させて底面に設けた黒い光吸収層に集める。二つの状態は電圧の印加の仕方を変えて制御する。いったん高い電圧を印加してから電圧をオフにすると,液晶分子がねじれた状態になる。低い電圧をかけてから電圧をオフにすると,液晶分子が垂直に立った状態になる。現在の駆動電圧は,STN液晶パネルのドライバと同程度という。

 表示原理は古くから知られていたが,層を重ねると表示が暗くなり,パネルを曲げる(たわませる)と表示が薄くなったり消えてしまうことが実用化を進める上で壁になっていた。今回の試作機では,液晶材料を変えたり,各液晶層の境界面の屈折率を調整して明るさを向上させた。さらに,パネルを曲げたときに液晶分子が動かないような仕組みを取り入れて曲げたときに表示が変わらないようにした。

 用途として本命視しているのは,携帯電話など小型な画面で表示した内容を拡大して表示するビューア。反射型なので長時間見ても疲れず,薄く軽いことから扱いやすい。表示データは携帯電話から無線で送る。このほか,消費電力が低く薄いことを生かして,ICカードの表示部分や電車の広告(ドア部に張られている広告や中吊り広告,駅の柱に巻き付ける広告),電子棚札,医療用(電子カルテや検査で撮影した画像の表示)などを考えているという。フィルムの製造ラインの仕様上,今のところA4が最も大きいサイズ。価格は1万枚製造した場合,1枚当たり4~5万円である。

(堀内 かほり=日経バイト)

追加情報および訂正: 表示サイズは3.5インチではなく,対角3.8インチの誤りでした。本文中「フィルムの製造ラインの仕様上,今のところA4が最も大きいサイズ」とありますが,A4サイズというのは「現状の研究試作レベルでの最大サイズ」です。製品化に当たっては,市場でのニーズを考慮して決定します。また価格も同様に,現時点では未定です。