日本AMDは2005年6月30日,インテルを相手取り,公正で自由な競争が阻害され販売機会を逸したとして,総額5500万ドル(約60億円)の損害賠償を求める訴訟を東京高裁および東京地裁で起こした。インテルは同年3月に公正取引委員会から,パソコン向けマイクロプロセッサにおける独占的地位を利用して,他社との取引中止を条件にパソコン・メーカーに対してリベートを支払った行為について独禁法違反の排除勧告を受けた。インテルは事実関係を争わずにこれを受け入れた(応諾)が,国内独禁法は制裁金を課していない。このため日本AMDは,同年6月28日に米Advanced Micro Devices社が米Intel社を米国独占禁止法(シャーマン法)違反で提訴したのに合わせ,米国独禁法の課徴金相当の賠償を求め提訴した。

 東京高裁に対しては公取委の勧告に含まれる排除行為による逸失利益について,東京地裁に対しては公取委の勧告に含まれていない営業妨害行為における逸失利益について,それぞれ提訴した。独禁法25条の規定による損害賠償請求は東京高裁が管轄となるため,計2件の提訴となった。

 報道陣向けに配布した訴状の要旨(訴状全文は配布せず)で日本AMDがインテルによる排除行為として挙げているのは,インテルがリベート提供を条件に,(1)東芝,ソニー,日立製作所の3社に対してAMDマイクロプロセッサを採用させないようにした,(2)NECに対してAMDマイクロプロセッサ搭載製品の割合を全出荷台数の10%以下に留めさせた,(3)富士通に対してボリューム・ゾーンの製品でAMDマイクロプロセッサを採用させないようにした,の3点。これら排除行為による逸失利益は5000万ドル(約55億円)と算定した。

 一方の営業妨害行為として挙げているのは,4点の行為である。リベート提供などを条件に,(1)国内パソコンメーカーに対してカタログやWebサイトからのAMDマイクロプロセッサ搭載製品(以下AMDパソコン)の排斥を要求,(2)日本AMDとパソコン・メーカー共催のイベント用に製造したAMDパソコンをインテルが買い取り,米Intel社製マイクロプロセッサ搭載製品に入れ替えさせた,(3)国内パソコンメーカーに対してAMDマイクロプロセッサ関連のイベント不参加を要求,(4)パソコン雑誌に対してAMDマイクロプロセッサ搭載製品の記事を削除させ評価も改変させた,とした。こちらの逸失利益は500万(約5億円)ドルと算定した。

 今後は両裁判において,日本AMD側が排除行為および営業妨害行為を立証できるかが焦点となる。インテルは同年3月に公取委の勧告を応諾したが,事実関係の有無を争う審判手続きを経ていないため,「審判による勧告に比べると,民事訴訟における勧告の証拠能力(事実上の推定力)は弱い」(柳田野村法律事務所の菊池元一弁護士)という。「Athlon 64やOpteronは顧客に受け入れられた成功したマイクロプロセッサ。独ドレスデンに建設中の工場(Fab36)で製造能力も上がる。これらの状況から,自由な競争を回復するのは今だと判断した」ため提訴に踏み切った(日本AMDの吉沢俊介取締役)。

 インテルは「現時点では訴訟の詳細を把握していないのでコメントできない」(インテル広報室)としている。なお米Intel社は米AMD社からの提訴について,「インテルは常に事業展開する国々における法律を尊重し,顧客に最良の価値を提供するために積極的かつ公正に競争している。これは今後も変わらない。過去に関わった独禁法訴訟では,満足のできる解決を得た。AMDの申し立てに全く同意することはできない。今回の訴訟もこれまで同様,有利に解決すると固く確信する」(同社のPaul Otellini社長兼CEO)としている。

(高橋 秀和=日経バイト)

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