「現在のインターネット検索技術では,人はほしい情報になかなかたどり着けない。我々は今後,その人が求める答えそのものを提示できる検索技術を提供していきたい」──来日中の米Microsoft社のBill Gates会長は2005年6月27日,「次世代検索を語る」と題した講演で今後の検索技術に対するビジョンを語った。現状ではまだ初期段階にあるインターネット検索技術が今後5~10年で劇的に進化する,さらにそれがインターネットを牽引するものとなるとの見通しを示した。ただ披露されたデモ自体は米Google社などによって既に実現されているものが多く,特別な目新しさは感じられなかった。

 Gates氏はまず,現状の検索技術の問題点をいくつか指摘した。まず,検索結果として情報に対するリンクしか表示されないこと。「これでは,本当にそれが求めている情報なのか,新しい情報なのかが分からない。結局リンクをたどってほしい情報を探す手間がかかる」(Gates氏)。ユーザーの意図を把握することもできていない。「例えばあるカメラの製品名で検索したとき,それを既に持っているユーザーなのか,持っていないユーザーなのかによって求める答えは異なる。前者は製品のサポート情報が欲しいだろうし,後者は製品の購入を判断するための情報を探しているだろう。こうした状況の違いを,システムが判断したい」(Gates氏)。

 これを受けて,現在研究開発中のいくつかの技術を披露した。まず,質問に対する答えそのものを提示する「AnswerBot」。「Microsoft Researchの所長は?」などと質問すると,回答をピンポイントで表示する。次に,「start.com」。選択肢の中から天気予報,スポーツ情報など自分の興味がある分野をドラッグ・アンド・ドロップで貼り付け,必要な分野の最新情報を自動的に集めるWebページを作成できる技術だ。さらに,ランドマークとなる建物や店舗などを地図データとリンクさせ,地図をたどっていくことで目的の情報にたどり着く「Virtual Earth」。「Space Needle」というシアトルの有名なタワーを基に,その近くにある寿司料理店を探すというデモが披露された。

 こうしたサービスは,確かに今後のインターネット検索の姿を予見させる。ただ今回の講演で披露されたデモの多くは,米Google社などによって既に実現されているものだった。例えばAnswerBotは質問応答として検索分野では長く研究されていたもので,NTTレゾナントが「Goo」で「日本語自然文検索実験」として2004年に実現していたもの(現在公開を終了)などと同じと言える。start.comもパーソナライゼーションの機能自体は珍しいものではない。ドラッグ・アンド・ドロップを多用したユーザー・インタフェースも「Google Personalization」などでも見られるものだ。地図情報サービスは「Google Maps」と変わり映えしない。

 また全体を通して印象的だったのは,ブラウザを利用しながらページ遷移なしで情報を更新する表示手法が多用されていたこと。Webページに埋め込んだJavaScriptのプログラムによってWebブラウザとWebサーバーを非同期に通信させる,いわゆるAjax(Asynchronous JavaScript + XML)を用いていると見られる。Ajaxは,Googleなどが公開するWebアプリケーションなどで採用されて話題となったもの。Microsoftも明らかにこの手法を重視しており,AjaxによるWebアプリケーション開発がさらに広まる可能性を伺わせた。

(八木 玲子=日経バイト)