組み込みシステム関連産業の市場規模は51兆円で,国内総生産の1割を占めるほどに成長している。それに伴って組み込みソフトウェア開発者の需要も急速に増えており,現在は国内で7万人ほど不足している状態――。情報処理推進機構(IPA)のソフトウェア・エンジニアリング・センタ(SEC)は2005年6月20日,「2005年版組込みソフトウェア産業実態調査報告書」を公開した。「急速に拡大する市場に追いつけず,開発現場が多くの課題に直面している実態が明らかになった」(SEC 組込み系プロジェクトの田丸喜一郎プロジェクト・サブリーダ)。

 調査は,(1)組み込みシステム関連企業の経営者および事業責任者,(2)開発プロジェクト責任者,(3)技術者個人にアンケート形式で実施した。有効回答数は(1)が236,(2)が289,(3)が1339である。(1)の調査から浮かび上がってきたのは,組み込みソフトウェア開発者の不足。現在組み込みソフトウェア開発に従事しているのは17万5000人程度だが,7万人ほどが不足していると見られている。不足を補うために8割以上の企業が外部委託をしており,1/3ほどの企業は海外にも委託している。また組み込みソフトウェア開発者の年齢構成からも,開発人員の確保を急ぐ企業の姿が伺える。30代前半よりも若い人員が組み込みソフトウェア開発者全体の6割を超えている。この割合は,ハードウェア技術者では4割に満たない。

 (1)の調査からは,企業経営者の意識が製品の品質を左右する傾向も明らかになった。経営目標を達成するために何が必要かという問いに対して,「品質の向上」を挙げた経営者とそれ以外を挙げた経営者の間で,出荷後に不具合が発覚した製品の割合(不具合率)が異なるかどうかを比較した。品質の向上を挙げた経営者では,不具合率が10%を超えた企業は全体の約27%。一方,品質の向上を挙げなかった経営者の企業では,約45%が不具合率10%を超えていた。

 (2)の調査では,組み込みソフトウェアが大規模化しているにもかかわらず,開発プロセスや開発計画書などが有効に活用されていない実態が報告されている。例えば,20%を超えるプロジェクトが,いまだ標準的な開発プロセスがないと答えている。開発計画書にしても,全社や部門共通のひな形があるのは35%ほどにすぎない。作成しないプロジェクトも8.5%存在する。開発工数やコストの見積もりについても,標準的な手法に基づいて実施しているプロジェクトは1割に満たない。

 こうした現実を開発者自身も認識していることが,(3)の調査から分かる。7割を超える開発者が「人手が足りない」と答えている。また約半分の開発者が「開発計画がずさん」なことを問題点として認識している。その一方で,自らの仕事を「やりがいがある」「面白い」「社会の役に立つ」などと評価している開発者が多いことも明らかになった。

 報告書は,IPA SECのWebサイトから無償でダウンロードできる。全部で約1300種類のデータが記載されている。電話インタビューによる海外調査の結果も含まれている。

(八木 玲子=日経バイト)