アセロス・コミュニケーションズは2005年6月7日,携帯電話やPDA,デジタルカメラなどの組み込み機器向けに低消費電力を特徴とした無線LANチップ「AR6001X」と「AR6001G」を発表した。AR6001XがIEEE802.11a/gに対応するのに対し,AR6001Gが対応するのは11gにのみ。

 省電力を達成するために,大きく三つの技術を盛り込んだ。一つは,無線LANに必要な回路の集積化。RF回路のほか,MAC層の制御回路,全体を制御するプロセッサ回路などを集積した。この結果,消費電力の大きい外部インタフェース用駆動回路を減らせた。また,プロセッサ回路を組み込んだことで,802.11プロトコルの処理をすべてチップ内で行えるようになり,機器に搭載するマイクロプロセッサの処理を減らすことができる。
 
 二つ目は,チップ内でのきめ細かい電力制御の厳密化。アナログのRF回路では電流調整をこまめに行えるようにした。デジタル回路では,処理を実行していない回路に給電しないといった工夫を施した。
 
 三つ目は,Automatic Power Saving Delivery(APSD)と呼ぶプロトコルに対応したこと。これはQoS(Quality of Service)を定めたIEEE802.11eのオプション仕様である。IEEE802.11の通信では一般に,端末側は常に信号を受信できる状態になっており,他の端末が通信していないときにパケットを送信したり,自分あてのパケットを受信した場合に返信を返す。APSDでは,端末とアクセス・ポイントで送受信を行う周期をあらかじめ決めておく。端末側は送受信時に周期的に起き上がり,パケットの送受を行う。その他の時間は,全く受信を受け付けないスリープモードで動作できるので,大幅な省電力を達成できる。

 チップの消費電力に関しては,現在実験中として明らかにしなかった。ただし,「競合他社の組み込み向けチップが送信時1.5W,受信時1W程度必要なのに対し,2分の1から3分の1程度になる感触を得ている。また,プロセッサ回路の搭載などにより,システム全体では6分の1になる」(米Atheros Communications社のWilliam McFarland最高技術責任者)という。

 すでにサンプは出荷を開始済み。量産出荷は2006年第3四半期から。価格はサンプル価格で12ドル程度。AR6001XとGの価格差は約1ドルだという。
 
(中道 理=日経バイト)