「今後の企業ネットワークがどうなるのか,どう作ればいいのか。企業と通信事業者,および通信事業者とシステム・プロバイダの関係が今後どうなっていくのかを考える意味で,Skypeは良い教材になる」――NTTデータの松田次博・ネットワーク企画ビジネスユニット長は2005年2月4日,無料のP2P型インターネット電話(ソフトフォン)サービス「Skype」による4者通話をデモ。企業の電話サービスのすべてを置き換えるものではない点を強調しながらも,Skypeがユーザーを引きつけた「安い,便利,簡単」を手本にすべきと,日経BP社主催の「NET&COM 2005」における講演「『逆転の発想』が企業ネットワークを変える--IP電話を超えて」で参加者に語りかけた。

 まず最初に松田氏は,IP電話の歴史を振り返り,IPセントレックスの実利が「ボックスレス」にある点を強調。IPセントレックスの定義を「通信事業者が提供するサーバーを経由して,端末と端末がP2PでつながるIP電話サービス」(松田氏)とした上で,「社内にIP電話のサーバーを設置する“自営IPセントレックス”と称されるネットワークはIPセントレックスと呼べるものではない。単にIP化するだけではなく,キャリアのIPセントレックス機器を複数拠点で共有することでサーバーや機器を削減できる」(松田氏)とIP電話構築に対する松田氏のポリシーを改めて示した。

 IP電話にかかわる機器をなるべく少なくすることで,技術や業務の変化に柔軟に対応できる。ここでもSkypeを例に挙げ,最低限IPがルーティングできる環境であれば,その上にオーバーレイ・ネットワークとサービスを構築できる点を説明。「回線やメーカーに縛られないネットワークが大事。明日からより安価な回線や機器に交換する,といったことが可能なオープン・システムでなければユーザーを無視した企画・設計だ」とし,ボックスレスとオープン・システムのコスト・メリットを語った。一般にIP電話のメリットとされる「生産性の向上」については「錬金術」(松田氏)とバッサリ。「実利を得るのが大事。生産性の向上を金額に置き換えて皮算用するのは意味がない」と切り捨てた。

 続いて松田氏は,1970年代から2004年の企業ネットワークの変遷を振り返った後に講演タイトルである「逆転の発想」を披露。(1)「専用線」,(2)「0AB-J番号」,(3)「ブランド」。これまでネットワークの金科玉条のように語られてきたこの三つが消滅する可能性を示した。

 (1)の専用線については,FTTHサービスのBフレッツを例に必要性の低下を説明。「家庭向けを想起させる『ファミリータイプ』という名称にこだわる必要はない。客観的な調査・検証を重視すべき」とした。

 (2)の0AB-J番号は,位置の固定や通信品質の確保が企業ユーザーの業務実態と合わなくなっているとし,今後は移動体通信にも使える「050」番号,さらにはSkypeに代表されるユーザー名(エイリアス)にアドレス情報の主体が移り変わっていくと予測した。「確かに050は偉大な発明だった。しかし国際標準ではない。私自身,数字にこだわりすぎていた。数字しかアドレスに使えない機器がなくなっていけば,エイリアスの利用が増えるだろう」(松田氏)。

 (3)のブランドは,機能が同じであれば安価なものを採用するのがユーザーの利益になる点を強調。「“怪しい”からという理由ではなく,客観的な検証が必要」(松田氏)とした。国内では回線速度がハイペースで向上していることから「ブランド力のある海外メーカーはインタフェースの高速化についてこれない。国内メーカーが有利」と機器メーカーに所属する参加者にハッパをかけた。

 最後にエピローグとして,企業ネットワーク企画・設計の心得を披露。「必要な機能を入念にヒアリングした上で,その機能を満たす機器やサービスの中からブランド・イメージにとらわれず低コストのものを選ぶべき」とした。機器メーカーやベンダーは「Skypeは無料で多機能。機能をコストで割った“価値”は無限大になる。これに勝てる機器やサービスを考えていかなくてはならない」と,次の一手で満たすべき条件を提示した。続く質疑応答では,「Skypeに勝つ方法」の具体策に質問が集中。松田氏は「それを今考えているところ。ただあくまでSkypeは“アナザーフォン”。現状ではメインの電話になり得ない。とはいえ,さらに機能が増えるのであればメインの電話になり得るかもしれない」と,残された時間があまり長くない可能性を暗示した。

(高橋 秀和=日経バイト)