東京地方裁判所は2005年2月1日,ジャストシステムに対して,ワープロソフト「一太郎」とグラフィックス・ソフト「花子」の製造・販売中止と製品の廃棄を命じる判決を言い渡した。両製品が自社の特許を侵害しているとして,松下電器産業が2004年8月7日に出していた差し止め請求が認められた。ジャストシステムは同日記者会見し,即座に控訴する構えを見せた。「この訴えが認められることは,Windows上で動作する全世界のソフトウェアが影響を受けるということ。徹底的に闘う」(同社の内藤興人理事)。

 松下電器産業が保有する特許は,大まかに言えば,あるアイコンの機能を説明するヘルプ画面を出すために,「ヘルプ画面を出す」ことを示すアイコンをまずクリックし,次に所望のアイコンをクリックするという手順を踏むもの(公開番号:特開平3-144719)。ワープロ専用機に関して取得したものである。例えば画面の「ABC」というアイコンの機能が知りたいとする。このときにまずヘルプを出すという機能を持つ,マウスと「?」から成る領域をクリックする(ステップ1)。するとカーソルが「?」付きのものに変化するので(ステップ2),それを「ABC」のところに持って行きクリックする。これで「ABC」の機能のヘルプが表示される(ステップ3)。一太郎は,こうした機能を1996年に発売されたバージョン7から備えていた。米Microsoft社がWindowsに搭載する,ヘルプの提示機能を用いて実装されている。このヘルプ機能は一太郎だけでなく,Windowsアプリケーションの多くが利用している。

 2004年8月にも,同じくジャストシステムの「ジャストホーム2家計簿パック」をめぐる同様の訴訟に関する判決が東京地裁で下っている。このときは松下電器産業側の訴えが退けられ,特許の侵害は認められなかった。争点となったのは,ヘルプ機能を利用するための「第1のアイコン」がアイコンか否かということ。ジャストホーム2家計簿パックでは,「?」マークが書かれたエリアをクリックしてから別のアイコンをクリックすると,そのアイコンに関するヘルプが出る。2004年には,この「?」マークのエリアはアイコンではなく,ボタンであると判断された。しかし今回の訴訟の対象となった一太郎や花子では,「?」マークの横にマウスの絵が描かれている(画面)。「この絵が原因でアイコンと見なされ,特許侵害を認める判決に結びついた」(内藤氏)とジャストシステムは見ている。松下側からは,係争の途中で金銭による和解の申し入れがなされたという。しかし「到底承服できる内容ではなく,応じなかった」(ジャストシステム広報IR室室長の鍋田毅取締役)。

 ジャストシステムだけでなく,同様の仕組みでヘルプ画面を表示するアプリケーションはすべて特許侵害と見なされる可能性がある。松下電器産業は,今回の訴訟対象がジャストシステム1社だったことについての理由を明らかにしていない。

 なお2005年2月10日には,一太郎と花子の最新版の発売を控えている。最新版にも,当該の機能は搭載される予定だ。ただしジャストシステムが控訴の方針を見せていることから判決は確定しておらず,予定通り発売される予定。また今回の裁判所の命令には,過去に販売済みの製品の回収は含まれていない。このため既に一太郎や花子を使っているユーザーは,今後もこれまで通り利用できる。

(八木 玲子=日経バイト)

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