電柱に張り巡らされている電力線や家庭内の電力線を使って通信する電力線通信(PLC)の相互接続仕様を策定する業界団体が続々結成されている。スペインのPLCチップメーカーであるDS2(Design of Systems on Silicon)社を中心とした「UPA(Universal Powerline Association)」は,2005年1月に存在を明らかにした(設立は2004年9月)。もう一つが,ソニー,松下電器産業,三菱電機の3社が中心となり2005年3月末までに設立する予定の「CE-Powerline Communication Alliance(CEPCA)」である。どちらも,数M~30MHz程度の周波数帯域を使用することを前提にしている。

 CEPCAとUPAは,PLCの利用形態と団体を構成する企業の業種が異なる。CEPCAは宅内の電力線を使うことを想定している。参加企業は家電メーカーとパソコン・メーカーが中心となる見込みだ。将来的にAV家電やパソコンがPLCモデムを内蔵すれば,コンセントに電源プラグを挿すだけでどのメーカーの機器とでも通信できるようになる。このため,接続されているPLCモデムを識別し,送信時間もしくは周波数帯域を分けて信号がぶつからないようにする仕組みを決める。現状では異なるメーカーのモデムは電力線上で信号が衝突するため通信できないからだ。このほか,著作権保護やセキュリティに関する仕様を決める予定である。

 UPAは宅内および屋外の電力線を使うことを想定している。DS2のチップを使うモデムメーカーやそれを扱う商社8社で構成されており,日本では住友電気工業,伊藤忠商事が加盟している。スペインではすでに高周波(1.7M~30MHz)を利用する電力線通信が実用化されており,現在は最大45Mビット/秒のモデムが使われている。UPAでは今後最大200Mビット/秒のモデムを使うことを前提にして,宅内のPLCモデムと屋外のPLCモデムを接続するための相互接続仕様を決めるという。ちなみにDS2は最大200Mビット/秒のPLCチップを開発したメーカーである。

 PLCの仕様に関しては,「HomePlug Powerline Alliance(HPA)」という団体が2000年4月に結成されているが,チップメーカーやモデムメーカーが中心である。米Intellon社,米Conexant Systems社,DS2,シャープなど43社が加盟している。2001年には約10Mビット/秒程度の通信が可能な「HomePlug 1.0」を策定,現在も高画質の動画像をやりとりするAV家電やパソコン向けの仕様である「HomePlug AV」を策定するなど活動は続いている。だが,家電メーカーやパソコン・メーカーには「オープンな議論がされておらず,情報がなかなか手元にこない」,「チップメーカーやモデムメーカーが中心で,実際に機器に組み込まれるとなった場合に家電メーカーやパソコンメーカーの声が反映されにくい」などの不満の声があるという。

 これらのうち,今後国内の利用状況に大きく関与しそうなのがCEPCAだ。PLCに割り当てられた周波数帯域は,国内では10k~450kHz。9600ビット/秒程度の低速な通信しかできない。高速な電力線通信を実現するには周波数帯域を2M~30MHzまで拡張する必要がある。日本におけるPLCの周波数拡張は,2002年に総務省が設置した研究会で一度見送られている。電力線から漏洩する電磁波が同じ周波数帯域を使用する他の通信を妨害するという実験結果が出たためだ。そこで,推進メーカーは主にモデムを中心に漏洩電磁波を低減する対策を進めた。総務省は2004年1月に漏洩電磁波の低減を目的とした実証実験を許可,2005年1月終わり~2月初め頃には宅内利用に限定して周波数拡張を検討する研究会を発足させる予定である。詳しくは,日経バイト2005年2月号に記事を掲載した。

(堀内 かほり=日経バイト)